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AIは物理学を‟信じて”いない

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宇宙ジェットの発生時期をデータ分析により予報する

2026年2月6日富山大学 宇宙情報科学研究室
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工学ホットニュース

 富山大学 宇宙情報科学研究室では、名古屋大学やハーバード大学の研究者達との共同研究を通して、宇宙のいたるところに存在するブラックホールが放つジェット現象の謎の解明に取り組んでいます。ブラックホールは、周辺のプラズマをほぼ光の速さで細長く噴出させるジェット現象を普遍的に起こします。現象の発見から100年以上たつものの、その発生機構や発生する理由はいまだにわかっていません。

 これまでジェット噴出を捉える観測データが少なかった最大の原因は、いつ噴出するのかを予測できず、良いデータを得るのは勘頼み・運頼みであったことでした。そこで同一天体から複数回ジェットを発生させているデータを用いて、ジェットが発生する条件を、良い意味で慣例とは異なるデータ分析手法を駆使して見出しました。私達が発見したジェット噴出前の予兆現象を足掛かりに、噴出時期を予報する「ジェット予報」分野を開拓しています。

テーマの利用・大学での取り組み

 宇宙のあまねく場所に存在するブラックホールは、周辺のガス(プラズマ)を吸い込む直前、ガスの一部をほぼ光の速さ(光の速さの99%以上)で細長く噴出する現象(ジェット現象)を起こします。太陽の数倍程度の質量をもつ恒星質量ブラックホールだけでなく、各銀河の中心に位置し太陽の10万倍から数10億倍にまでおよぶ質量をもつ巨大ブラックホールまで、普遍的にジェット現象が発生します。後者は、銀河外まで影響を及ぼし銀河の成長の歴史をコントロールしてきたとも考えられています。また、突然光り輝き太古の宇宙の情報を我々に知らせてくれるガンマ線バーストも、ジェットがたまたま地球を向いている時に観える現象だと理解されています。高エネルギーガンマ線の検出などから、ジェットは生命の生存環境に大きな影響を及ぼす宇宙線の生成機構の重要候補でもあります。

 しかしながら、この宇宙のどこでも起こるジェット現象は発見から100年以上経つものの、どのように・いつ・なぜ発生するのかを、未だ人類は理解していません。日本物理学会が2017年にまとめた「物理学70の不思議」にも記載されている大きな謎です。

 我々はこの未解決問題に対して、約20日間の間に5回から6回のジェット噴出を起こすという噴出現象を調べるのに最適の天体(XTE J1859+226)に着目しました。この天体はブラックホールと太陽のような恒星が重心の周りを互いに周る連星を成しています。1999年から2000年にかけて観測されたX線と電波での観測データを我々は改めて見直し、解析を進めました。具体的には、X線観測から求まる物理量の時間変化率(時間微分量)と電波観測データの総エネルギー量(時間積分量)を比較するという新しい手法を用いて分析しました。ブラックホールへ流れ込むガスは円盤状の構造を形成します。我々は分析の結果、「円盤の内縁半径が急激に小さくなり、最内縁安定軌道に達した時」に、ジェットが噴出することを明らかにしました。長く停滞していた分野にデータサイエンスにより風穴を開ける好例となりました。

今後の展望

 私達が明らかにしたこのジェット噴出前の予兆現象が、単一の天体での特殊な振る舞いではなく多くの天体で成り立つことを、さらなるデータ分析を通して確認・検証する必要はありますが、ブラックホール天体全般に普遍的に成立すると実証されれば、次のような波及効果が期待できます。

(1)「噴出が予測されるタイミングへ向けて緊急観測へ向けたアラートを発する」ジェット予報の確立が期待できます。ジェット噴出現象を捉える観測を開始するかどうかや、いつ開始するのかの判断は勘頼みの状況でした。長く謎であったジェットの噴出条件が明らかになったことで、予報される時期に観測資源を集中でき、高感度検出装置を用いた高頻度観測に繋がり、ジェット噴出・宇宙線発生の物理過程を明らかにする研究を加速させます。

(2) ジェット噴出機構について、ブラックホールの自転のエネルギーを磁場を介して引き抜く機構など、多くの理論的提案がされてきました。本研究による、動的な条件が噴出に本質的だという結果を受けて、円盤内縁が最内縁安定軌道にある時にずっとジェットが出てしまう機構、つまり静的な条件で噴出してしまう多くの理論モデルに修正が必要になると考えられます。

(3) 円盤内縁が最内縁安定軌道に達すると、内縁半径が一旦離れてまた速く縮まることができるようになるまで、ジェット噴出は起きません。この間、落ち着いて次のジェット噴出へ向けて観測網を構築する余裕ができます。

(4) ジェット現象という、宇宙の長い歴史において各銀河の成長史をコントロールしてきたと考えられる重要なプロセスの理解の前進につながります。

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