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化学発光(ケミルミネッセンス)

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機械で臓器を作れるか?臓器を工学で作る時代に向けて

2019年1月25日富山大学 工学部 工学科生命工学コース

工学ホットニュース

世界では、多くの人々が臓器を待っています。しかし、移植大国米国でさえ、毎日20人の患者さんが臓器を待ちながら亡くなっています。臓器を工学的に作り出せるようになると、多くの人々の生命が救えます。このような背景から、細胞培養の技術で臓器を作る研究が始まりました。Tissue Engineering (組織工学・再生医工学)と呼ばれる研究です。これまでは主として研究者が手作業で細胞を播いて培養する手法で取り組まれてきました。しかし今、時代は進んで、3Dプリンターで作る時代が始まりました。プリンターがあれば、パソコン上のいろいろな画像や写真が出力できます。同様に臓器を作れる3Dプリンターがあれば、実物の臓器や組織の画像データから実物の組織・臓器が作れるという構想です。このような手法をバイオプリンティング、あるいはバイオファブリケーションと呼びます。3Dプリンターが世界的ブームになったおかげで、Tissue Engineering の領域にも一気に研究者が増え、この研究開発は加速されています。科学技術で臓器を作り人の生命を助ける日を目指して、世界中の研究者たちが研究に取り組んでいます。

テーマの利用・大学での取り組み

 再生医療には3つのレベルがあります。

 レベル1は、細胞移植のレベルで、患者さんから採取した細胞を患者さんに投入する方法です。細胞が手に入りさえすればできるのでお医者さんが中心に行われてきました。しかし、移植した細胞はほとんどなくなり、細胞が直接働いて大きな効果を得ることは難しい問題があります。今、多種細胞に分化する幹細胞の移植、マイクロウェルなどで培養した細胞集塊の移植が盛んに試みられています。

 レベル2は、細胞培養した組織を患者さんに移植するレベルです。培養皿で培養した培養皮膚や培養軟骨が、今、皮膚移植や軟骨移植の代わりに臨床で治療に活躍しています。今後、角膜や食道粘膜なども実用化が期待されています。しかし、培養皿での培養組織は薄く構造がない組織に限られます。厚みのある3次元組織では、スキャホールド法が用いられてきました。この方法では、スキャホールドと呼ばれる3次元の足場材に細胞を播いて、培養して体内に移植します。体内で分解する生分解性材料でスキャホールドを作ることで、移植後、体内で足場が溶けて、移植した細胞組織のみが残って機能する、という構想です。しかし、細胞は足場材に後から研究者の手作業で播かれます。それ故、細胞は表面にしか付かず、細胞の分布や構成や、内部構造を制御することは困難です。また、体内埋め込み後、移植された細胞は、いきなり増殖旺盛な白血球や線維芽細胞との生存競争にさらされます。さらに体内では様々なサイトカインや増殖因子という細胞挙動を左右する因子が嵐のように吹き荒れています。つまり、体内は臓器再生に適した環境では決してないということです。結局、望みの組織は得られず、線維性の瘢痕組織にしかならならないのが大きな壁となっています。

 レベル3の再生医療は、人工的に作製した高度な組織、臓器を移植して臓器不全を治療する再生医療です。このためには、機能する高度な組織・臓器を体外で作る技術が必要です。そこで私たちは、多種細胞を3次元で配置する機械の手として3Dバイオプリンターを世界に先駆けて開発してきました。もちろん、この装置だけで臓器が作れるわけではなく、その他にも今までにない培養技術や装置、材料や医薬品、様々な生産技術、製造技術が必要です。そのような臓器を作るのに必要な一連の技術を考え、挑戦して、高度化することで再生医療をブレークすることを目指しています。

今後の展望

 3Dプリンターという機械の手を導入することで、これまで不可能だった細胞を3次元で並べて組織や臓器を作る道が切り拓かれました。機械の手の導入は、その他にも、再現性よく質のそろった製品を生産する、高速に大量に作製する、コンピュータと連動して高品質のもの作りができる、などいろいろな利点があります。

 2015年国際バイオファブリケーション学会(International Society for Biofabrication; ISBF)では、バイオプリンティングとバイオファブリケーションの定義を見直し、これからの方向性が議論されました。「バイオファブリケーションとは、生きた細胞や細胞活性分子、生体材料、細胞集塊(ミニ組織や細胞と材料のハイブリッド)などから、バイオプリンティング、バイオアセンブリ、そしてその後に続く組織成熟の過程を通して、構造的な組織を持ち生物学的な機能を持つ生産物を自動的に産み出すこと」と定義され、バイオプリンティングとともに、バイオアセンブリ、その後に続く細胞組織の成熟のプロセスの重要性があげられています。すなわち、臓器を作るにおいては細胞を並べるだけでなく、細胞を培養する、成熟させるなどの生物学的な工程が必要であることと、それぞれの工程においてもそれに適したいろいろな機械の手、工学技術の開発が必要だということです。

 また、一方で、AI(Artificial Intelligent;人工知能)などのコンピュータ技術も年々レベルアップが進んでいます。機械で臓器を作る手法は、そのようなコンピュータ技術との連結もしやすく、これからの時代に合ったテーマと言えるでしょう。機械の手とコンピューターの頭脳を活かした本格的な組織や臓器の構築に発展することが期待できます。生命工学コースでは生命科学の基礎を学びます。またものつくりの基礎も学びます。両方の技術を習得し、さらに修士・博士課程で専門の知識と技術を究めて、「機械で臓器を作れるか?」の挑戦に邁進しませんか?富山大学から世界に先駆ける技術や製品、研究成果を発信したいと考えています。

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