カテーテル治療は、外科手術に比べて患者さんの身体への負担が少なく高齢者や体力に乏しい方にも適応できることなどメリットが多いため、全世界的に普及してきました。カテーテル治療では、太ももの付け根や手首付近の皮膚を小さく切開して血管を露出させ、医療機器を格納した細い管を血管のなかを通して病変部に届けることで治療を行います。例えば、動脈硬化などが原因で血管が狭くなってしまったら、バルーンと呼ばれる風船状のカテーテルで膨らませたり、ステントと呼ばれるメッシュで筒状のカテーテルを拡張することで支えたりして治療します。
ここで、バルーンやステントの血管を押し拡げる力が強いほど血管はよく拡がりますが、拡張しすぎると血管への負荷が強すぎて炎症や破裂のリスクが高まってしまいます。このように血管に作用する力は治療効果や合併症のリスクを判断するのに重要なのですが、血管は細く柔らかいので作用する力を正確に測るのが難しく、現状では血管の性質や医療機器の選択によってどの程度その力が変わるのかよく把握できていません。
この血管にかかる力がわからないという問題に対して、弘前大学理工学部の森脇研究室では、薄くて柔軟なセンサフィルムを使ってその力を「視える化」しています。変形しやすさを合わせた模擬血管(モデル)を透明な材料で作製し、そのなかでバルーンやステントの実物を拡張しますが、血管とカテーテル機器の間にセンサフィルムを挟むことでその力の強さを数値化することができます。その際、センサが硬くて本来生じるべき血管の変形を妨げてしまうと力の値は変わってしまいますが、センサは十分薄く柔軟で血管の変形に追従するので妥当な値を評価することが可能です。これまでに、血管の硬さや医療機器のサイズや拡張の強さが血管にかかる力へどのように影響するのかを明らかにしてきました。
最近はセンサが内蔵された血管モデルの開発も進めています。研究として新たな知見を得るだけならセンサを実験者が配置すれば良いのですが、はじめからセンサが内蔵されていれば医師や医療機器メーカーの技術者らが簡便に使用でき、トレーニングや新しいカテーテル機器開発時の評価に活用できるシミュレーターに応用できます。また、医療機器の評価のみならず、血管に生じるコブ(動脈瘤)など成長や破裂のリスクの評価など、物理的な観点から病気が生じる原因の解明にも貢献できないかと思っています。
現状では、血管拡張用のバルーンカテーテルを拡げたときに血管側にどのような力がかかるのかがずいぶん分かるようになってきました。今後は石灰化というカルシウムなどが沈着して硬くなってしまった血管の低リスクな治療法の提案やステント使用時に血管に作用する力の評価に繋がるような研究を進めていければと考えています。
また、センサ内蔵血管モデルを多くの方に使っていただけるように活動できたらとも思います。特に、昨今の人手不足の波は医療現場にも押し寄せているようで、研修医や若手の医師がカテーテル手術への理解を深められるトレーニングシミュレーターとして応用することで早く熟練者になれるようなお手伝いが出来れば嬉しいです。いまは血管側にセンサを付けていますが、最近のウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)の急速な普及の流れにのり、病気の進行度合いがモニタリングできるセンサが付いたスマートステントなんか開発できたらなんて考えています。
工学者はお医者さんのように目の前の患者さんを救うことはできませんが、医療機器の開発を通じて多くの患者さんを救う可能性を秘めています。今後は医師や医療機器メーカーさんとの連携をさらに発展させ、近い将来の医療を少しでも明るくできるよう活動していく予定です。
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