近年、電気自動車の普及、データセンターなど情報処理の大型化で、電気エネルギーの需要は益々伸びており、その一方で、地球温暖化を抑えるため省エネルギー化が求められています。このような電気エネルギーの変換には、パワー半導体が使われており、そのほとんどは半導体材料にシリコン(Si)が使われています。しかしパワー半導体のエネルギー効率は、Siの物性値で決まる理論限界に達していて、これ以上、高効率にすることができません。そのため、世界的に、Siよりバンドギャップエネルギーの高いSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)の研究開発が活発に行われていますが、ダイヤモンドは、最もバンドギャップエネルギーの高い半導体材料で、究極のパワー半導体です。我が国は、かつてダイヤモンド半導体研究が盛んに行われていましたが、その電流値や電圧値は非常に低く、あきらめられていました。
しかし佐賀大学は、ダイヤモンド半導体デバイスに必要なドーピングなどの基盤技術を独自に解決し、2022年に、ダイヤモンドで世界最高の出力電力(875MW/㎠)、出力電圧(3659V)を報告しました。
佐賀大学は今年、ダイヤモンド半導体デバイスを用いたパワー回路を世界初に開発しました。作製したダイヤモンドパワー回路は、①効率に影響を与える10ナノ秒を切る高速のスイッチング動作をし、②190時間の連続動作でも全く劣化が見られませんでした。
①10ナノ秒を切る高速のスイッチング動作に関しては、ターンオン時間が9.97ナノ秒、ターンオフ時間9.63ナノ秒となり、超高速のスイッチング動作を確認しました。スイッチング損失はターンオン損失では55.1ピコジュール、ターンオフ損失では153.2ピコジュールと大変低い値を示し、これはダイヤモンドパワー回路が、いかにエネルギー損失が低く、効率が高いかを示しています。
②190時間の連続動作に関しては、190時間連続測定で、特性劣化が全く見られませんでした。動作中に出力電流値が徐々に増加し、入力電流値も増加する現象が見えましたが、動作を終えると連続測定前の特性に戻るというわずかな特性変化が見られました。
今回の開発により、カーボンニュートラルの実現とともに通信量の膨大化により開発が急がれるBeyond5G基地局からの出力の飛躍的向上や、未だ真空管が使用されている通信衛星の半導体化が実現できるようになることが期待されます。
今後は、開発したダイヤモンド半導体パワー回路で、今回明らかになった特性変化の物理的機構を明らかにするとともに、その対策を講じたダイヤモンド半導体デバイスを作製してまいります。また、今後さらに高電圧での動作や過酷な動的特性試験を行い、Beyond5G基地局の出力向上や通信衛星の半導体化等、実用化を目指した研究開発を加速してまいります。
また、佐賀大学は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)からの委託で、JAXA、独立行政法人国立高等専門学校機構呉工業高等専門学校と共同で、ダイヤモンド半導体デバイスの宇宙通信向けマイクロ波電力増幅デバイスの開発・実用化研究を進めることになりました。そこでは、ダイヤモンド半導体デバイスを使用した搭載用マイクロ波帯固体増幅器の試作及び宇宙実証、地上用アプリケーションのユーザーや商業化を担う民間企業と連携しての低コスト化・事業化の計画の検討を進め、地上用・宇宙用と幅広い実用化を目指して開発を進めてまいります。
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