ホットワイヤ・レーザ技術によるマルチマテリアル積層造形技術の特徴
ホットワイヤ・レーザ技術によるマルチマテリアル積層造形技術の特徴
3Dプリンタと呼ばれるAM(Additive Manufacturing:積層造形)技術は、ものづくりの工程を大きく変える可能性があります。特に、微細・精密な製品から大型プラントまで幅広く使用されている各種金属材料を、自由度高く、高能率に積層できる技術が開発できれば、製品性能を大きく向上させることも可能になります。
本研究では、直接接合・造形が困難なステンレス鋼(SUS304)とアルミニウム合金(A5183)の異材組み合わせにおいて、ホットワイヤ・レーザAM技術を用いた高強度異材積層造形に成功しました。耐食性・強度などに優れるステンレス鋼に、放熱性・軽量化などに優れるアルミニウム合金を高強度に積層造形できるようになれば、それぞれの特徴を活かした新しい製品・部材開発が可能になり、設計の自由度も大きく向上すると考えています。本技術は開発途上ではありますが、種々の異材組み合わせへの応用、様々な製品への適用など、各種製品の性能向上や環境負荷低減に貢献できると期待されます。
本研究は、広島大学と産業界(三菱電機殿)との密接かつ効果的な連携によって実現された成果です。広島大学において研究・開発を行っているホットワイヤ・レーザAM技術は、ホットワイヤ法と高出力半導体レーザとを組み合わせることによって、精密な入熱制御や基材への入熱の大幅な低減と、超高能率施工との両立を可能にするものです。三菱電機殿は、ワイヤ・レーザ金属3Dプリンタを開発・販売されており、レーザとワイヤ供給によるAM技術のトップランナー企業です。技術内容に共通点も多いことから共同研究を開始し、今回の成果はその一つになります。
本研究では、非常に脆い金属間化合物(IMC)の生成が避けられないステンレス鋼(SUS304)とアルミニウム合金(A5183)との直接積層造形にチャレンジしたものです。革新的なホットワイヤ・レーザAM技術を基礎に、フラックスを効果的に活用することで、IMCの生成を効果的かつ安定的に抑制し、ステンレス鋼(SUS304)上にアルミニウム合金(A5183)を高強度に直接積層造形することが可能になりました。作製した積層造形体のステンレス鋼(SUS304)/アルミニウム合金(A5183)接合界面から引張試験片を切り出して界面強度を評価したところ、平均で125MPaの非常に高い強度を得ることができました。
ホットワイヤ・レーザAM技術は、本研究で対象としたステンレス鋼(SUS304)とアルミニウム合金(A5183)以外の幅広い異材金属材料の組み合わせに適用可能であり、新たな異材組み合わせによる積層造形技術の開発を進める予定です。また、ホットワイヤ・レーザAM技術は幅広い材料・製品に適用可能な技術であり、現状では積層造形が困難な高性能・難加工材料への適用も検討しています。たとえば、WC(タングステンカーバイド)を主成分とする超硬合金は粉末冶金法での製造が必須であり、製造工程の複雑化、材料・製品の歩留まり低下などの問題を抱えています。現在、超硬合金製品の製造企業と共同で、ホットワイヤ・レーザAM技術を応用したこれまでにない製造技術の開発を進めています。
ホットワイヤ・レーザAM技術は、現状の粉末金属材料を用いる3Dプリンタが抱える、施工能率、材料歩留、材料価格、欠陥防止などの問題を解決できる可能性を有しており、AM(積層造形)プロセスの幅広い活用を可能にするため、広島大学での基礎現象解明、基盤機器・システムの開発を進めています。
今後は産業界との連携をさらに幅広く展開し、基礎的な研究とともに実用的な研究・開発を進め、本技術の実機への適用に向けた取り組みを行っていく予定です。
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