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自分らしく生きていくために

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病気の類似性から創薬標的や治療薬を探索する機械学習手法を開発
-分子ネットワークを有効活用した医薬品開発へ-

2020年10月30日九州工業大学 情報工学部
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工学ホットニュース

 表現型が異なる病気の情報を融合するためには、病気に特徴的な分子を比較することが一般的ですが、分子間の機能的な連動性が考慮されておらず、病気のメカニズムの理解が困難という問題がありました。そこで本研究では、病気に特徴的な分子間相互作用ネットワークを比較することで、分子間の機能的な連動性を考慮し、病気のメカニズムの共通性や特異性の理解につなげました。

研究の背景と経緯

 医薬品開発において、創薬標的分子やその制御化合物を見つけることは重要課題です。一般的に病気は表現型の違いで区別されていますが、異なる病気間でも分子的特徴が共通する場合があります。例えば、肺高血圧症と男性機能障害は一見全く異なる病気ですが、PDE5 というタンパク質の異常発現は共通しており、どちらも PDE5 を創薬標的分子としてシルデナフィルという化合物が治療薬になったという経緯があります。

 これまで、創薬標的分子を見つけるためには、治療を目的とする病気のみに焦点を当てデータを収集し、健康な人と比較するアプローチが一般的でした。しかし、創薬標的の候補となる生体分子は非常に多く、探索空間が広いため、有効な創薬標的分子を選ぶのが困難という問題がありました。

 そこで、シルデナフィルの例から示唆されるように、病気と病気の関係性も考慮することで、創薬標的分子を効率的に探索できる可能性があることに着目しました。そのためには、病気間の分子レベルでの類似性を評価する必要がありますが、単純なデータの比較だけでは、病気間の潜在的な共通性を見いだすのは困難です。生命システムは多数の生体分子の複雑な相互作用によって成り立っており、病気はその破綻として引き起こされます。生体分子群の機能的な連動性を考慮し、病気と病気の関係性を正確に評価する指標が強く望まれています。

 一方、近年、様々な病気の罹患者の臨床データやオミックスデータ(遺伝子発現情報など)が網羅的に手に入るようになってきています。これらの様々な医療ビッグデータは医薬品開発の有用なリソースと考えられており、創薬標的分子や治療薬を同定する情報技術が切望されています。

研究の内容

 九州工業大学大学院情報工学研究院の山西芳裕教授、飯田緑博士研究員、岩田通夫博士研究員は、 様々な病気のオミックスデータから、分子間相互作用ネットワークに基づく病気の類似性を評価し、創薬標的分子や治療薬の同定を支援する新しい情報技術を開発しました。

 本研究では、病気を特徴付ける生体分子相互作用ネットワークの比較から、異なる病気間の潜在的な関係性を見いだすというコンセプトを提唱し、病気の類似性を評価する新しい方法を提案しました(図1)。さらに、様々な病気に関与する分子ネットワークの情報と創薬標的分子や治療薬の情報の相関関係をモデル化し、病気の類似性に基づき、様々な病気に対して創薬標的分子や治療薬候補を探索する機械学習手法を開発しました(図2)。

従来の医薬品開発では、注目する病気のデータを精査し、創薬標的分子や治療薬を探索するというアプローチが取られていましたが、探索空間が広いという問題がありました。そこで本研究では、様々な病気のデータや分子間相互作用ネットワークの融合解析を行い、創薬標的分子や治療薬を探索するというアプローチを取ることで、似ている病気の創薬標的分子や治療薬の事前知識を取り入れ、創薬標的分子や治療薬の探索を容易にしました。 従来の医薬品開発では、注目する病気のデータを精査し、創薬標的分子や治療薬を探索するというアプローチが取られていましたが、探索空間が広いという問題がありました。そこで本研究では、様々な病気のデータや分子間相互作用ネットワークの融合解析を行い、創薬標的分子や治療薬を探索するというアプローチを取ることで、似ている病気の創薬標的分子や治療薬の事前知識を取り入れ、創薬標的分子や治療薬の探索を容易にしました。

 まず、ある2つの病気が分子間相互作用ネットワーク上でどれくらい似ているかを評価する方法を提案しました。がん、神経変性疾患、呼吸器系疾患など79種類の病気について、罹患者の遺伝子発現データから病気を特徴づける遺伝子群を抽出し、それぞれの病気に対する遺伝子群が分子間相互作用ネットワーク上で構成するモジュールをその病気を特徴づける分子群として同定しました。そして、79種類すべての病気のペアについて、病気を特徴づけるモジュールの分子群の近さから病気間の類似性を計算しました。

 次に、病気間類似性と創薬標的分子や治療薬の共通性の対応関係をモデル化し、創薬標的分子候補または治療薬候補を探索する機械学習アルゴリズム(AI基盤技術)を開発しました。この結果、予測精度の指標の一つで実用的に重要である、再現率5%時点の適合率を検証し、従来法と比較して最大3倍向上させることができました。実際に、酵素-基質に関する分子間相互作用ネットワークを用いて、様々な病気の創薬標的分子や治療薬の共通性を探索し、一例として、特発性肺線維症と2型糖尿病が創薬標的分子を共有する可能性が予測されました(図3)。このことは、マウスを用いた研究において、糖尿病の経口薬が特発性肺線維症の治療に効果があることが近年の文献で報告されており、この予測結果の妥当性を確認することができました。

開発手法を、がん、神経変性疾患、呼吸器系疾患など 79種類の病気に適用し、病気間類似性から創薬標的分子を探索しました。ここでは、生体分子間相互作用ネットワークの1つである酵素-基質ネットワークを用いて、創薬標的分子を共有すると予測された病気間の関係性を示しています。 開発手法を、がん、神経変性疾患、呼吸器系疾患など79種類の病気に適用し、病気間類似性から創薬標的分子を探索しました。ここでは、生体分子間相互作用ネットワークの1つである酵素-基質ネットワークを用いて、創薬標的分子を共有すると予測された病気間の関係性を示しています。

今後の展開

 本研究では、創薬標的分子や治療薬を探索する機械学習手法を提案しました。これにより、創薬標的分子や治療薬の同定だけでなく、病気のメカニズムの解明や薬効の予測など、医薬品開発の促進が期待されます。
 今後は、遺伝子発現データだけではなく、他の様々なオミックスデータや臨床データを融合することにより、創薬標的分子や治療薬の探索精度をさらに向上させ、様々な病気に対する医薬品開発につなげていく予定です。

発表雑誌

雑誌名:「Bioinformatics」(オンライン版:7月13日 ※英国夏時間)
論文タイトル:Network-based characterization of disease–disease relationships in terms of drugs and therapeutic targets
著 者 :Iida, M., Iwata, M., and Yamanishi, Y. DOI 番号: 10.1093/bioinformatics/btaa439

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