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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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災害リスクが存在する地域のまちづくり

2021年11月12日徳島大学 理工学部理工学科社会基盤デザインコース
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工学ホットニュース

 かつて、日本人は災害と共存しながら生活してきました。しかし、最近の災害は非常に規模が大きく、かつ色々な地域で発生しています。生活様式や人々の意識も変化しており、人口減も続いています。防災に対して、従来とは違った対応が求められます。災害に対して整備された、各種の社会基盤施設(インフラストラクチャ)は、地域の安全性向上に大きく寄与してきました。しかし、インフラ整備だけでは対応しきれない規模の災害や、人工物であるインフラ自体の維持管理も問題になっています。これからは、災害が存在することを前提として、まちのあり方を考えることが求められます。徳島大学では、災害リスクが存在する地域のまちづくりをどのように考えてゆけばよいのか、あらゆる側面から研究が進められています。

善蔵川流域

 徳島県海陽町大里地区の善蔵(ぜんぞう)川流域を対象として、洪水リスクを考慮した土地利用について、研究した事例を紹介します。
図1は、この地域の土地利用です。国道とJRが南北を縦断し、その西側と南東側に大きな水田、東側に市街地、南側に海部川が存在します。沿岸域には、大里海岸があり、広大な松林が広がります。図2は、海部川からの洪水(外水氾濫)の予測浸水深です。市街地付近にも浸水が予測されています。図3は、いくつかのデータを使って推計した地価(宅地)です。国道沿いの色々な施設がまとまっている地域を中心に高い値となっています。ここでは住宅地の地価を推計していますので、この値が高い地域は、住環境が良好で、居住地としての可能性が高い地域です。しかし、もともと住宅が分布していたこともあり、近年は空き地・空き家化など、人口減も進んでいます。

図1 善蔵川流域の土地利用

図1 善蔵川流域の土地利用

図2 海部川からの洪水浸水予測値(m)

図2 海部川からの洪水浸水予測値(m)

図3 推計した地価(円/m2) 図3 推計した地価(円/m2)

土地の評価と土地利用計画

 地域全体として人口が減少する中、この地域のまちづくりを考えるには、どこで居住が継続するのか。それは、災害リスクの面からみて問題ないのかなど、いくつかの条件を総合的に考慮する必要があります。そこで、地域を50m四方に区分し、そこに含まれるデータを使って特徴を分類しました(図4)。地域2は、洪水リスクが存在するにもかかわらず、地価が高い(利便性が高い)地域です。こういった地域では、災害に脆弱な建築規制や避難環境の整備、リスクの周知など、安全に生活するための取り組みが必要です。同じ地域内でも、条件によって、居住に適する地域、適さない地域、対応が必要な地域などに分かれます。災害が変わると、この条件も変わってきます。将来の土地利用を考えるためには、これらの結果を基に、総合的に判断することが求められます。もちろん、課題が残ったままの地域も出てきます。しかし、そういった地域でも、どうすれば安全を担保できるのか、建築技術や避難行動など、あらゆる観点から住民と一緒にまちの将来像を考えていくことになります。

図4 類型化の結果 図4 類型化の結果

これからのまちづくり

 この地域の西側には、大きな水田が広がっています。水田は、稲作が主目的の地域です。しかし、災害時に雨水を一時的に貯留させることで、周囲の洪水被害を緩和する効果も期待されています。さらに、沿岸部の大里海岸の松林は、景勝地であるだけでなく、この地域を津波や暴風から守っています。こういった、インフラとしても活用できる自然環境資源をグリーンインフラストラクチャ(GI)といいます。大きなものは、遊水池や沿岸林、小さなものは建物の緑化や雨庭など、海外を中心に、防災への活用も進んでいます。収穫前の水田や畑が浸水した場合の対応や、農地をどうやって維持させるかなど、実現化に向けた課題は多く残っているものの、今まで整備してきたインフラと組み合わせることで、大きな効果も期待できます。まちが抱える課題は地域によって、時代によって、多種多様です。一度に解決する処方箋はありませんが、色々な分野の知見を組み合わせることで、柔軟に対応することが求められます。

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