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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

生命誕生のなぞに迫る?!放電実験

2020年10月2日
横浜国立大学 理工学部

はじめに

「アストロバイオロジー」という言葉を聞いたことがありますか?宇宙における生命の起源、進化、伝播、および未来を研究する学問です。最初の生命はどのように誕生したのでしょうか?生命の誕生にはまず有機物が必要です。原始地球大気中で雷などのエネルギーによって起こった化学反応は、地球の生命の誕生につながる有機物の生成に関与したと考えられています。雷をまねた放電実験を行って、どのような分子が形成されるかを調べてみましょう。

実験方法

 図1のようなガラス容器に一対のタングステン電極を取り付けます。タングステン電極の間は1 cmほど空けます。ガラス容器の両端はガラス栓が取り付けられるようになっており、電極はガラス栓に組み込まれています。このような容器は実験用ガラス器具を取り扱うメーカーさんで作ってもらうことができます(ガラス細工が得意な方は自作でも)。ガスを出し入れするコックも忘れずにつけましょう。ここで使ったガラス容器は上部(放電部)と下部が取り外しできるようになっています。下部にたまった水溶液を回収しやすいようにするためですが、必ずしもこのようにセパレートタイプにする必要はありません。

図1 放電実験用ガラス容器(右側は電極が見やすいように拡大してあります)図1 放電実験用ガラス容器(右側は電極が見やすいように拡大してあります)

 模擬原始地球大気として窒素・二酸化炭素・メタンの混合ガスと純水を入れます。混合ガスの組成はいろいろ変えてみましょう。ここでは窒素50%、二酸化炭素25%、メタン25%にしていますが、実際の原始地球大気はもっとメタンが少なかったと考えられています。 図2のように容器に付いている一対のタングステン電極の一方をテスラコイルにつなぎ、もう一方を接地(アース)します。ここで使用しているテスラコイルは、絶縁体のリークチェック用に市販されている、米国Electro-Technic Products社のBD-50E Heavy Duty Generator (https://www.electrotechnicproducts.com/bd-50e-heavy-duty-generator/)です。

図2 放電実験装置の全体像図2 放電実験装置の全体像

 準備ができたら間欠タイマーを用いて、1分間隔のON-OFFサイクルを数時間繰り返します。放電中の様子はこちら↓

調べてみよう1

 テスラコイルってなんだろう?どのような仕組みになっているのかな?調べてみよう。

放電実験生成物の分析

  1. 四重極形質量分析計

     ガラス容器中の気体を質量分析計(四重極形質量分析計)で分析します。図3と図4はそれぞれ放電前・放電後のガスの質量スペクトルです。質量分析では試料中のガス分子はイオン化されて検出されます。横軸は質量(m)と電荷(z)の比である「m/z」値で表されます。今回用いている質量分析計ではほとんどのイオンの電荷は1になります。したがって、例えば質量数16のメタンはm/z=16の位置にピークがでます。縦軸は強度(intensity)を示しており、ピークの強度が大きいほどたくさんの分子が含まれていることを示します。

    図3 放電実験前のガスの質量スペクトル図3 放電実験前のガスの質量スペクトル
    図4 放電実験後のガスの質量スペクトル図4 放電実験後のガスの質量スペクトル

     放電前の気体(図3)と放電後の気体(図4)を比べてみると、メタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)など炭素を含む気体の割合が減少し、⽔素分⼦の割合が⾮常に⼤きくなりました。放電のエネルギーで気体の分⼦が分解されたと考えられます。

  2. ガスクロマトグラフ質量分析計

     同じ気体をガスクロマトグラフ質量分析計で分析します。クロマトクラフという装置を用いて気体分子の種類ごとに分離してから質量分析を行うことができます。図5は放電前後のガスクロマトグラムです。横軸ガスクロマトグラフで保持される時間(単位は分)を示しています。保持時間は分子の種類によって異なるため、分子種ごとに分離することができます。

    図5 放電実験前(青)と1時間放電後(オレンジ)のガスのクロマトグラム。下は保持時間3~7分の拡大。図5 放電実験前(青)と1時間放電後(オレンジ)のガスのクロマトグラム。
    下は保持時間3~7分の拡大。

    (1)と同様に、メタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)など炭素を含む気体の割合が減少したことがわかります。さらに、C≡C、C=C、エタン(H3C–CH3)など、(1)で検出されなかったものもみられました。

  3. アミノ酸分析

     実験生成物の水溶液に含まれているアミノ酸を分析します。まず、実験後に回収した水溶液を6M塩酸で110℃、24時間処理することにより、酸加水分解を行います。その後、高速液体クロマトグラフ装置でアミノ酸分析を行うと、グリシンなどのアミノ酸が検出されます。しかし、加水分解を行わないとアミノ酸はほとんど検出されません。酸加水分解は結合している分子同士をバラバラにしてアミノ酸として測れるようにしています。放電後の状態(加水分解前)はアミノ酸の分子同士が結合している状態であったと考えられます。生命の起源となったアミノ酸は複雑に結合した状態だったのかもしれません。

調べてみよう2

 いろいろな分析装置が出てきました。それぞれどのような方法でしょう?仕組みや特徴を調べてみよう。

おわりに

 本実験は、1950年代にミラーとユーリーが行った有名な実験をもとにしています。当時は、原始地球の環境で無生物的にアミノ酸が形成されることを示したということで大変話題になりました。しかしその後、原始地球大気はミラーたちが考えていたような強還元型大気(メタン・アンモニア・水素)ではなく、窒素や二酸化炭素を主成分とし、水素・一酸化炭素・メタンなどの還元型気体が少量加わった弱還元型大気であったと考えられるようになりました。このような弱還元型大気では強還元型大気に比べ、アミノ酸などの有機物は形成されにくいのですが(本実験ではアミノ酸ができやすいようにメタンを多めに入れています)、宇宙線などのエネルギーを使えばアミノ酸が形成しやすくなることが知られています。さらに、宇宙を含め、様々な環境でアミノ酸が形成されることが知られています。宇宙で作られたアミノ酸は隕石などに乗って地球に降ってくることができます。実際に、宇宙で無生物的につくられたアミノ酸を含んでいる隕石がたくさん見つかっています。生命の起源となった有機物はどこでどのようにできたのでしょう?これには様々な可能性があり、唯一の結論には至っていません。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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