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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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カードを用いた暗号技術の研究

2023年3月17日茨城大学 工学部
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工学ホットニュース

 秘密計算とは、秘密情報を隠したまま計算を行うことのできるマジックのような暗号技術です。例えば、「アリスの貯金額とボブの貯金額のどちらが大きいのか?」ということを知りたければ、普通はお互いの貯金額を教え合う必要がありますが、秘密計算を用いれば貯金額自体はお互いに秘密にしたまま、どちらの貯金額が大きいのかということだけを知ることができます。秘密計算は、近年ではさまざまな応用先が検討されていて、特にプライバシーを考慮した情報サービスへの応用が期待されています。例えば最近では機械学習やAIの性能向上によってさまざまな情報サービスが誕生していますが、それらのモデルを構築するために必要なデータにはしばしば個人情報(名前、生年月日、居住地、生体情報、趣味など)が含まれます。秘密計算を用いることで、それらを隠したままデータ処理を行うことができるため、便利さとプライバシーの両方を考慮した理想的な情報サービスが実現できるだろうと考えられています。

テーマの利用・大学での取り組み

 このように秘密計算は安心安全な情報社会を実現するためになくてはならない技術であると考えられています。しかし、秘密計算の普及はまだまだ道半ばと言って良いでしょう。普及が進んでいない理由の一つに、暗号技術特有の「分かりにくさ」があります。秘密計算に限らず、暗号技術は一般的に「プライバシーを考慮しなければ簡単に実現できることを、プライバシーを考慮することによって非常に複雑になる」という傾向があります。また、暗号技術が役に立っていることはなかなか実感しにくく、情報漏えいなどの事故が起きた際に、やっと暗号技術のありがたみが実感できる(あるいは、導入しておけばよかったと後悔する)ということはよくあることです。この「分かりにくさ」についての課題を解決するための一つの方策として、トランプのようなカード組を用いて物理的に秘密計算を実現することにより、秘密計算の「分かりにくさ」を解消するという研究が知られていて、これはカードベース暗号と呼ばれています。(なお、カードベース暗号には理論的な興味から研究する側面もあり、むしろそのような側面の方が主流であることについては注意しておきます。)カードベース暗号の特徴は、秘密計算をカードを並べて手操作で実現できることです。コンピュータを使った実装だと、コンピュータの内部がブラックボックスとなっていることから、秘密計算の仕組みや概念を理解することが難しくなるのに対して、カードベース暗号は全てがオープンにされているため視覚的に分かりやすいのです。私たちの研究室では、カードベース暗号の方式の構成について研究していて、パズルの答えが存在することを答え自体は教えずに相手に納得させる方法など、さまざまな方式を実際に提案しています。

今後の展望

 カードベース暗号の応用先の一つはセキュリティ教育や暗号技術普及のためのツールということでした。それでは、カードベース暗号には、それ以外の応用先はないのでしょうか。実は、つい最近までは多くの研究者は「カードベース暗号の応用先は教育・啓蒙以外にはないだろう」と信じていたようですが、最近の私たちの研究成果によって、カードベース暗号の方式から(コンピュータ上で実装される)普通の秘密計算の方式を構成できることが分かりました。つまり、カードベース暗号という研究分野と普通の秘密計算の研究分野は、今まで関係が薄いだろうと思われていたのですが、直接的な関係性があることが初めて明らかになりました。このような関係性はまだ明らかにされたばかりで、今後はさらに深い関係性を明らかにしていく必要があります。具体的には、カードベース暗号の方式からどれくらい効率的な秘密計算方式が構成できるのかということについては、まず研究する必要があるでしょう。また、カードベース暗号と暗号技術の他の関係性についても明らかにされる必要があると思われます。カードベース暗号は、まだまだ進化を遂げる余地の残された魅力的な研究分野の一つです。カードベース暗号の研究は、世界的にもいくつかのグループが取り組んでいる一方で、その多くの研究は日本が中心となって進められています。私たちの研究室も、引き続きカードベース暗号の研究を進めていき、今後もこの分野を深めていくことに貢献できたらと思います。

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