誰でも、どこでも、いつでも再生医療が受けられる未来に!
誰でも、どこでも、いつでも再生医療が受けられる未来に!
現在では細胞の凍結保存が技術的に可能になっており、卵子バンクや精子バンク、臍帯血(造血幹細胞)バンクなどが実用化されている。そのまま常温に細胞を置いておくと、せいぜい数日しか保存できないが、-196℃の液体窒素中で凍結保存することにより数年単位での保存が可能になる。卵子のように一つ一つの細胞であれば凍結保存が可能であるが、その一方で、細胞塊(スフェロイド)や細胞シートのように多細胞からなる生体材料は、未だに凍結保存が困難である。スフェロイドや細胞シートは、再生医療の主力材料として期待されており、新たな凍結保存技術が求められている。
そもそも、細胞やスフェロイドなどをそのまま凍結保存すると、氷の結晶によって細胞膜が傷つけられてしまい、細胞が死んでしまう。そこで「凍結保存剤」という氷をできにくくする添加剤を加えて、細胞を氷から保護することが重要になる。凍結保存剤としては、ジメチルスルホキシドやトレハロースなどが有名である。それらの物質は、一つ一つの細胞に対しては有効であるが、スフェロイドや細胞シートに対しては有効ではないことが知られている。その理由としては、スフェロイドや細胞シートには「細胞間」という概念があるからである。細胞間には細胞同士のコミュニケーションをするための様々な機能分子が存在するが、そこに氷ができやすく、スフェロイドや細胞シートがダメージを受けやすい。そこで我々は、新たな凍結保存剤として、双性イオン液体を提案している。双性イオン液体は、正電荷と負電荷を一分子内にもつ、アミノ酸のような形をした物質で、人工物質でありながら毒性が低いことが報告されている。双性イオン液体はその電荷によって水分子と強く相互作用することができ、氷の結晶化を抑えることができた。その結果として、スフェロイドの凍結保存効率を大きく向上できた。
現在の再生医療では、病院で患者から細胞を採取した後、病院内でiPS細胞化・分化誘導・スフェロイド化(細胞シートについては以下略)し、患者へ移植することが主に想定されている。しかしこのようなプロセスだと、病院内にiPS化からスフェロイド作製までをするラボを併設する必要があり、先進国の中でも中枢となる病院でしか再生医療を受けることができない。もし、スフェロイドの凍結保存が可能になれば、工場でiPS細胞化・分化誘導・スフェロイド化を行い、長期保存できるようになる。これを日本全国の病院に発送することで、いつでもすぐに移植ができるようになる。また工業化により、数千万円ともいわれる再生医療に掛かる費用を下げられるとも考えられる。以上のことから、スフェロイドや細胞シートの凍結保存技術は、「誰でも、どこでも、いつでも再生医療を受けられる未来」を切り拓くための重要な技術になると期待される。
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