建物の赤外線画像
建物の赤外線画像
2012年12月2日、中央自動車道 笹子トンネルの天井板が落下し、9名の命が失われる事故が発生しました。このような痛ましい事故を防ぎ、人が安心して社会生活を行うためには、建設、敷設後長い年月が経過したトンネルや橋梁、道路などのインフラ構造物の定期的な維持管理検査が不可欠です。しかしながら、橋梁やトンネルなどの検査は現在でも目視検査や打音検査が主であり、検査対象物が大型である場合や高所に位置する場合などには、検査に際して検査者の足場を設置しての作業が必要になるなど、検査の効率面およびコスト面で多くの課題が残っています。国内、あるいは世界中の数多くの構造物に対する検査を行うためには、簡便で効率的かつ低コストな検査技術の確立が求められています。
国土交通省の調査(2017年度集計)によると、2018年3月時点で全国の道路橋の約25%、トンネルの約20%が建設後50年が経過しており、この数は今後加速度的に増加するとのことです。このような老朽化したインフラ構造物を今後も安全に使用し続けるためには、定期的な検査をはじめとする適切な維持管理が必要となります。その一方で、特に地方自治体などにおいては、検査を行う作業員の人手不足や、大きな維持管理コストなどが深刻な課題にもなっています。
このような課題に対し、2018年10月4日付の読売新聞ほか各誌によると、国土交通省は2019年度より、老朽化する道路橋の点検作業の効率化のため、赤外線を使った検査を導入するとのことです。これは、目視の代わりに赤外線サーモグラフィカメラによる観察を行い、得られる温度分布画像を評価することで構造物表面や内部の異常を検出する方法です。特徴は、検査対象物に対して非接触での検査が可能であることに加え、対象物から遠く離れていても検査が可能であることから、打音検査などの際に必要となる検査者の近接のための足場の設置などが不要となり、検査の簡便化、検査時間、検査費用の削減などの効果が期待できます。
コンクリート試験片に対する加熱実験の様子
赤外線を利用した検査には多くの利点がある一方で、同時に実用上のいくつかの課題も残っています。そのひとつは、現在検討中の赤外線検査は、検査対象物の条件や検査環境によっては、必ずしも検査が実施できないという点です。赤外線検査は欠陥などの存在しない健全部と異常部との間で発生する温度差の検出を基本とする検査であり、そのような温度差は太陽光による日射を十分に受けた対象物や、1日の気温変化(昼と夜の気温差など)が大きな条件において特に顕著になります。逆に言えば、例えばトンネル内部の検査など、太陽光が当たりにくく、かつ気温変化の小さい条件では検査が困難になります。
徳島大学理工学部機械科学コースでは、これに対して、検査対象物を加熱して人為的に温度差を発生させ、これを観察することで検査を行う方法(アクティブサーモグラフィ検査)によるインフラ構造物検査の可能性について検討を行っています。具体的には、対象物材料の表面特性、材料特性を考慮した最適な加熱装置、加熱方法の調査や、検査時間の短縮、検査精度の向上に向けたデータ処理方法の検討、検査時に対象物中で生じる物理現象に関する基礎研究などを行っています。また、高所や遠方に位置する対象物への検査を想定し、赤外線加熱・観察装置とドローン技術を組み合わせた検査に向けた取り組みも始めています。
近い将来のインフラ構造物の維持管理に貢献し得る技術を目指し、また、思いがけない事故で不幸になる人がいなくなるような社会を築くための技術を目指し、その基礎となる各種の研究に取り組んでいます。
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