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自分らしく生きていくために

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デバイス材料の中でおきている本当のこと
新しい原子イメージング法

2020年3月6日茨城大学 工学部
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工学ホットニュース

 半導体、LED材料、電池材料など私たちの生活にも重要な材料では、ごく微量の異元素を添加することでその性能を制御します。半導体の代表であるSiでは、わずか1億分の1個の割合のB(ホウ素)原子を混ぜることで電気的性質が何桁も向上し、実際に使えるようになります。従って、わずかに添加した異種元素(ドーパント)の周りの原子がどのような影響をうけているか、が性能向上の鍵になるのは容易に想像できます。しかし従来の原子の観測法では、物質中にわずかに存在する Bのような軽元素が周りの原子構造に与える影響を観測する方法はありませんでした。したがって、ドーパントの役割の重要性にも関わらず、ドープ系機能性材料の原子構造の理解は不十分でした。茨城大では、まったく新しい原子イメージング法として「白色中性子ホログラフィー」という手法を開発し、これまで不可能であった軽元素(H, Li, B, Oなど)を添加した場合、周りの原子がどのように配列を変えるか、を高精度で可視化することに世界で初めて成功しました。

テーマの利用・大学での取り組み

「白色中性子ホログラフィー」は、茨城大の近隣にある第強度陽子加速器施設J-PARC(茨城県東海村)での世界最高強度の白色中性子を利用することで、世界で初めて実現した方法です。この方法により、0.1%BドープSi、シンチレーション結晶1 % EuドープCuF2、LED材料結晶0.06% BドープSiC、熱電材料0.7%BドープMg2Siなどでも次々とドーパントが周囲に与える影響を直接可視化しました。軽元素(H, Li, B, Oなど)は環境材料、エネルギー材料には重要な元素であり、「白色中性子ホログラフィー」による原子イメージングによって、軽元素をドープして機能性が変化したとき原子レベルでは何がおきているのか、を研究することが可能になり、機能性と原子配列の関係を目で見ながら研究することができます。この視点は、物質理解に重要でありながらこれまではできなかった観測ですから、茨城大の技術により、機能性材料の性質の根本の理解が可能になり、そこから性能の向上の鍵がみつかると思っています。

 現在、我々の研究室(中性子構造物性研究室)では、学生さん7名とともに「白色中性子ホログラフィー」を用いた物性研究と、測定手法のさらなる高度化、高精度化に取り組んでいます。彼らの研究は内外で注目を集めており、ごく普通の工学部生であった学生さんたちが、欧州結晶学会国際会議などの国際会議で2回、国内学会で2回、優秀発表賞を受賞をしています。小さい地方大学の研究室が世界と戦う研究をしているので、学生さんのモチベーションも高まります。また、我々のやることの全てが世界初、世界トップの研究と技術ですから、他では得難い貴重な研究体験をすることができています。これは学生さんの成長に大きな意味があります。

 現在の科学は様々な専門家と協力して進めることが重要と考えられており、この研究も小さい茨城大学内にとどまらず、J-PARCセンター、名工大、広島市立大などの専門家との共同研究の成果でした。一流の専門家と様々な機会で触れ合うのも、学生さんの成長には貴重な体験です。

今後の展望

 中性子ホログラフィーは、2017年に誕生したばかりの技術です。理論的にも技術的にもわからないことだらけで、それだからこそ面白く、やりがいがあります。この手法をもちいて、重要な機能性材料のさらなる性能向上を原子の世界の根本を考える研究をすすめていきます。一方で、中性子ホログラフィーでの新たなチャレンジも計画しています。中性子の大きな特徴として、すでに述べたように軽元素への感度が高いこと、そして中性子自身が原子磁石(磁気モーメント)の性質をもっていること、があります。前者についてさらに技術的に高度化すれば、排ガスのないエネルギー材料として重要な水素貯蔵物質の研究がすすむはずです。水素貯蔵物質中の水素はどこにどうしているのかは当然重要な問題ですが、水素がきちんとした配列を作らないこともあり、その場合の観測は従来の手法では非常に困難でした。でも中性子ホログラフィーならば孤立した水素まわりの原子構造が顕微鏡で覗いたように可視化できますので、そこから水素が置かれた環境がわかります。このことは、水素貯蔵物質の性能向上とその現象の根本の理解に重要な研究です。また、中性子が原子磁石を持つことから、磁石材料中の鉄の原子磁石の大きさと配列を測定することができます。この性質を中性子ホログラフィーに導入することができれば、磁石材料でのドーパント周りの原子磁石がどうなっているのかがわかるかもしれません。この観測も磁石の性質を根本から理解する上で重要な意味をもちます。現在、我々の研究室では、学生さんとともに、水素と原子磁石の観測にも挑戦をはじめました。

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