GSHP建屋
GSHP建屋
猛暑が続く夏場には、熱中症対策のためにも冷房は欠かせない設備になっています。しかし、冷房を使うためにはエネルギーが必要であり火力発電由来の電力を利用すると、地球温暖化を進展させてしまうというジレンマに陥ります。他方で、冬季の暖房も快適な生活には欠かせないものであり、十分な暖房が得られない場合は生死にも関わることがありますが、その暖房を使う際にもやはりエネルギーが不可欠であり、その使用は地球温暖化を進める可能性があります。このように、冷暖房分野における脱炭素化は、脱炭素社会実現、つまり地球温暖化対策にとって重要な課題です。地中熱ヒートポンプ(Ground Source Heat Pump: GSHP)は、1年を通じて温度が変わらない地下水などの地中の温度を冷暖房の熱源とする技術です。GSHPは、一般的な冷暖房と比して50%の消費電力削減も可能であり、クリーンエネルギー由来の電力を用いている場合は、冷暖房におけるゼロエミッションを達成できる技術です。また、降雪地帯ではGSHPは融雪にも利用されており、降雪地帯の冬季の快適で安全な生活に貢献する熱エネルギー技術です。
秋田大学では、国際協力機構(JICA)と科学技術振興機構(JST)による地球規模課題対応国際科学技術プログラム(SATREPS)事業として、中央アジアのタジキスタン共和国にてGSHP技術の普及を目指した研究「地中熱利用による脱炭素型エネルギー供給システムの構築」を2021年より準備期間を含め6年間のプログラムとして実施中です。
タジキスタンは、電力の96%を水力発電に依存していますが、冬期は暖房エネルギー需要が増加するため停電が頻発し、郊外では電力供給が制限される地域もあります。電力供給が止まっている場所では、石炭を冬期のエネルギーとして利用しており、一般家庭では、5トンほどの石炭を冬期に消費していると言われます。また、学校や病院などの大規模施設では、石炭ボイラーで暖房を賄っており、大きな施設では1週間で8トンの石炭を消費しています。石炭を用いたボイラーはタジキスタン全土で学校や病院で960台あると言われています。他方で、タジキスタンの夏は40度を超えることも多く、冷房需要も増加しています。
そこで、秋田大学では、GSHPの実証サイト2ヶ所で1年間の試験運転を行い、タジキスタンに適したGSHPのモデルを構築することとしており、2025年8月からカウンターパートであるタジキスタン共和国科学アカデミー内にクローズドループ型のGSHPを設置、試験運転を開始しています。また、首都ドゥシャンベ郊外のマチトンにある共和国結核臨床第3病院にて、オープンループ型の試験運転を2026年に開始する予定です。
なお、GSHPの試験運転だけでなく、GSHP設置に必要な地中熱ポテンシャルマップについても作成を進めており、そのための100井の地下水水質調査も実施しました。同調査結果は、地下水を飲料水として利用する上で貴重なデータとなっています。
秋田大学では、これらの研究を実施する上で、現地から若手研究者を大学院に受け入れるだけではなく、学部生を含む若手研究者の派遣も積極的に実施しています。
GSHPチラー(吹き出し口)
GSHPプロジェクションマッピング
SATEPS事業としては、2027年4月の終了に向けて、第2サイトでの実証運転開始を行うとともに、実証運転の成果を踏まえた経済性評価を行うとともに、GSHPをタジキスタン社会で普及する社会実装のための制度作り(制度設計)も行います。また、2025年12月20日に開催された日本タジキスタン首脳会談の共同声明の「Ⅰ 重点協力3分野グリーン経済と強靱化:気候変動対策に沿った新産業の開発や産業の高度化を含む協力」分野において、秋田大学のSATREPS事業が言及されました。また、世界銀行グループである国際金融公社(IFC)など、タジキスタンや周辺諸国でのGSHP技術導入を積極的に働きかける動きも見られます。このように本研究は、タジキスタンの気候変動対策とそれに基づく協力事業として注目されており、GSHPのタジキスタン、そして周辺諸国への普及にむけて取り組んでいくことになります。
GSHPは、電力を生み出す技術ではなく、省エネ技術でありその姿は目立つものではありません。そのため、一般的な認識はまだまだ低いものがありますが、地球温暖化対策(脱炭素化)を進めるだけではなく、途上国ではエネルギーアクセスの向上にも貢献する技術であることを考えると、GSHP技術は今後も国際的に広がっていくと考えられます。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。