半導体結晶を作るひとつの手法である分子線エピタキシャル成長、という装置で用いられる超高真空はおよそ10-8Pa程度で、外気圏の静止衛星や月の軌道に近い環境になります。図1はその装置の外観ですが、外側が私たちのいる大気状態、内側がそのような超高真空が実現されています。従って、大気と真空が反対ではありますが宇宙船のように見えなくもない、と思うのですがいかがでしょうか。
そのような雰囲気にほとんど粒子がない環境清浄度と、加熱した金属などの蒸気が他の粒子にぶつからないことで実現する分子ビームを使うと、一原子層以下の精度で元素を積み重ねることが可能になり、とても高精度な結晶を作りあげることができるようになります。主な生産に用いられる手法は異なりますがこのような高精度結晶成長技術で青色LEDや通信レーザー、センサーなどの半導体デバイスは出来上がっていて、そこでは元素数十層程度の層が発光、受光層が光を発し、受け止めています。そのような半導体デバイスの多くは薄い膜の積層、結晶を原子配列を揃えて積み上げる場合“結晶成長”と私たちは呼んでいますが、その半導体結晶成長に応用され、多くの上記のような高機能デバイスが実現されてきました。
近年、結晶成長とナノスケール構造の理解や操作技術が進展し、意図的な3次元ナノスケール結晶成長とその応用も多く試みられるようになりました。1960年代、WagnarとEllisという研究者らによって、微小な液滴(雨の時に窓につく水滴のようなもの)からひげ上の結晶が成長することが発見されました。2000年頃、上記のような半導体デバイスに用いられる半導体材料でもその成長や応用が可能になることが提案されると、その開発は発展し、電子、光、エネルギー、医療まで応用可能各種デバイスが実現されました。私達も独自の技術で、新しいそのようなひげ結晶の開拓に取り組んでいます。図2はその中でみつかった結晶なのですが、不思議な構造が多くみられ、漫画などで描かれるような宇宙の惑星表面を見ているような気持ちにもなります。これらは実は決して意図してこのような形を作ろうとしたわけではなく、きれいなまっすぐの柱をつくろうとしたところ結晶が勝手にできあがってこのような多様な形になりました。これらは、サイズがおよそ幅100nm(1mmの1万分の1)、長さ数μm(1mmの約1000分の1)、という非常に小さな構造です。
図2に示した半導体ナノスケール構造:ナノワイヤ結晶の機能を調べたとこころ、その一本一本がレーザーとして動作したり、赤を入れたら青色の光が出てくる波長変換といった動作をすることがこれまでに判明しています。また、それらは光を受け止めた際の反応であることから、特徴的で高機能なセンサーでもあります。これらはまだまだ未知の構造や機能を発現させる可能性があるし、その確かな用途や使い方を見つけられれば現在の情報社会を革新するような、画期的な電子デバイスになる可能性があります。そのようなことを夢見つつ、楽しみながら研究を行っています。
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