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新構造のテキスタイル型圧力センサ開発

2022年11月25日京都工芸繊維大学 工芸科学部繊維学系
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図1 開発したテキスタイル型圧力センサの概説図と断面写真
[京都工芸繊維大学プレスリリース「新構造のテキスタイル型圧力センサを開発
ー糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な5層構造の圧力センサー」(2022年8月4日)より転載]

工学ホットニュース

 モノのインターネット(IoT)分野は近年急速に発展・拡大し、動作情報センシングや生体情報センシングなどを可能にする着用型のセンサにも高い注目が集まっています。また、ヒトや動物などのやわらかい生体向けの着用型のセンサとして、軽くてやわらかいテキスタイルセンサ(布や織物、編物からなるセンサ)への注目も高まっています。これまでにテキスタイルセンサとして、ひずみセンサや温度センサ、電磁波センサ、圧力センサなどが活発に研究されていますが、製造方法が複雑という課題がありました。例えば、機能性物質の塗布や印刷を何層にも重ねる研究報告が多数ありますが、製造工程が複雑になり、また繰り返し使用したり洗濯によって、剥離が生じる課題があります。また、テキスタイルセンサの表面に導電性の糸や導電性のコーティング層が使用されているものが多数報告されていますが、この導電部分に人体が触れると人体由来のノイズがのってしまい、信号検出に影響を与える課題があります。このような場合には、表面を絶縁性の布などで覆う追加構造が必要になります。

 このような状況のなか京都工芸繊維大学の研究グループは、導電性糸と絶縁性糸の糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な、表面の絶縁糸層を含む5層構造のテキスタイル型圧力センサを新たに開発しました。

テーマの利用・大学での取り組み

 京都工芸繊維大学の研究グループが新たに開発したテキスタイル型圧力センサは、全体が糸のみでできているため、手触りがよく、また簡単にカットしたり衣服などの繊維製品に縫い付けたりすることが可能です。当該圧力センサは、5層構造からなる静電容量方式の圧力センサであり(図1)、横編み機により1回で編みあげることが出来ます。表面および裏面のそれぞれの2層は、編み機の表裏のベッドで編まれる2層の編み構造です。中間層であるスペーサー層のモノフィラメントは、表面および裏面のそれぞれの2層の編み物を接続し、スペースを形成します(このスペース構造を有するファブリックはスペーサーファブリックと呼ばれます)。従来のスペーサーファブリックは、表裏2層の絶縁糸層とスペーサー層の3層から構成されました。一方で開発した圧力センサでは、絶縁性の綿糸と導電性の銀メッキ糸を、綿糸が銀メッキ糸の前面に出るように編むことで、表裏それぞれの最表面に絶縁性糸層が現れ、内側に導電性糸層が現れる5層構造を実現しました(図1)。この構造により、表面を触ったり押したりする場合には、綿糸の絶縁性糸層だけに触れることになります。モノフィラメントからなるスペーサー層は、3次元構造を支え、上下の導電性糸層の間に空間を保持します。開発した圧力センサは、対向する2層の導電性糸層からなり、この間にスペーサー層を介することでコンデンサとみなすことが出来ます。このため、圧力印加に伴いスペーサー層の厚みが変化すると、静電容量値も変化するため、静電容量方式の圧力センサとして機能します(図2)。実際に、周期的に圧力を印加したときの上下の導電糸層間の静電容量を測定したところ、印加圧力に応じて静電容量値が変化することが明らかになりました(図3)。

 開発したテキスタイル型圧力センサは、編み機を使って1回で編みあげることが可能です。また、これまでに報告されてきたテキスタイル型圧力センサの多くで用いられてきた、ラミネート加工やコーティングなどの後処理も必要ありません。このため、加工時間や手順の短縮、製造に要するエネルギーの削減が期待されます。

図2 圧力センシングの原理の概説図:圧力印加に伴うスペーサー層の厚みの変化を静電容量変化として検出する[京都工芸繊維大学プレスリリース「新構造のテキスタイル型圧力センサを開発 ー糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な5層構造の圧力センサー」(2022年8月4日)より転載]図2 圧力センシングの原理の概説図:圧力印加に伴うスペーサー層の厚みの変化を静電容量変化として検出する
[京都工芸繊維大学プレスリリース「新構造のテキスタイル型圧力センサを開発 ー糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な5層構造の圧力センサー」(2022年8月4日)より転載]
図3 開発したテキスタイル型圧力センサ周期的に圧力を5回印加したときの静電容量変化[京都工芸繊維大学プレスリリース「新構造のテキスタイル型圧力センサを開発 ー糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な5層構造の圧力センサー」(2022年8月4日)より転載]図3 開発したテキスタイル型圧力センサ周期的に圧力を5回印加したときの静電容量変化
[京都工芸繊維大学プレスリリース「新構造のテキスタイル型圧力センサを開発 ー糸のみを用いて1回で編みあげることが可能な5層構造の圧力センサー」(2022年8月4日)より転載]

今後の展望

 開発したテキスタイル型圧力センサは、ヒトや動物などのやわらかい対象物向けのセンサとして応用展開が期待されます。応用展開の例として、以下のデモ動画をお示しします。

ぬいぐるみに開発したセンサを貼り付けた握りセンシングのデモ動画
車のハンドルに開発したセンサを貼り付けた握りセンシングのデモ動画
足首に開発したセンサを貼り付けた足の曲げ状態のセンシングのデモ動画

 このように、今後はテキスタイルの良さを活かした社会実装を目指した研究開発を進めていきます。

 また、スペーサー層のモノフィラメントの直径などを変化させることで、開発した圧力センサのやわらかさや厚みも変化させることができ、静電容量値と印加圧力の関係も変化します。このため、適切なモノフィラメントを使用することで、当該圧力センサの感度や圧力検出範囲をカスタマイズすることが可能です。これまで編物とセンサはあまり接点がありませんでしたが、このような編物特有のユニークな特徴を念頭においた特性改善の研究開発も進めていきます。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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