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未来を照らす発光材料の開発

2023年10月17日熊本大学 材料・応用化学科
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工学ホットニュース

 発光材料とは、外部エネルギーによって励起された後、励起状態から基底状態に戻る過程で光を放出する材料です。これらの材料は、照明、ディスプレイ、有機ELや波長変換膜など、エレクトロニクスやエネルギー分野で幅広く利用されています。光刺激によって発光のOn/Off切り替えが可能な発光スイッチング材料は、細胞や生体組織を観察する超解像光学顕微鏡や光で情報を記録する光メモリなどに応用されており、新しいタイプの発光材料として注目されています。発光スイッチング材料にはこれまで有機色素が広く用いられてきましたが、耐光性に乏しいことや発光波長が幅広く色純度が低いことなどの課題がありました。

図1 図1

ナノレベルの材料複合化

 このような背景から近年、無機ナノ結晶蛍光体を基盤とする発光材料の開発が進められています。熊本大学の研究グループでは、これらの課題を解決するため、波長可変性に富みシャープな発光を示す金属ハライドペロブスカイト型ナノ結晶に着目し、新しい発光スイッチング材料の開発を試みました。金属ハライドペロブスカイト型ナノ結晶(CsPbBr3)とフォトクロミック分子のジアリールエテンを組み合わせ、紫外/可視光照射を介してCsPbBr3ナノ結晶の発光をOn/Off切替することに成功しました。ジアリールエテンは、外部からの光刺激によって無色の開環体と有色の閉環体の間を可逆的に異性化(構造が変化して性質が変わること)します。我々はこの光刺激によるジアリールエテンの可逆的な色調変化(光吸収波長変化)を利用し、CsPbBr3ナノ結晶表面にジアリールエテンが結合したハイブリッドを合成してナノ結晶の発光をOn/Offスイッチさせました。得られたハイブリッドをフェムト秒ポンプ・プローブ分光測定を用いて解析した結果、ナノ結晶から閉環型ジアリールエテンへの高速な電子・エネルギー移動が観測され、この現象が非発光(Off)状態の形成に寄与していることが明らかになりました。一方、CsPbBr3ナノ結晶と開環体で構成されるハイブリッドではこれらの現象が観察されず、高輝度発光(On)状態が維持されました。発光On状態とOff状態は紫外光と可視光を交互に照射することで可逆的に切り替えることができ、高いOn/Off発光強度比を示しました。

図2 図2

バイオイメージング、情報記録素子への応用ヘ

 CsPbX3ナノ結晶の研究は特に国外で非常に盛んになっており、太陽電池やLEDなどの応用が数多く提案されています。また、蛍光プローブとしての利用も幾つか発表されています。今回の成果は、高輝度発光性のCsPbBr3ナノ結晶とフォトクロミック分子を組み合わせることで、発光性ナノ材料の新しい機能を創り出したものになります。今後、これらの知見を活かしてさらに効率的にスイッチする光材料を開発することができれば、超解像イメージング用の発光プローブやナノ光メモリなどの記録媒体への応用が可能になるでしょう。特に記録素子については、CsPbX3ナノ結晶は100%の発光量子効率を有するため、その強い蛍光を情報読み出し光として利用でき、単一のメモリ部位として機能できると予想されます。量子ドットのサイズは2~10nmで制御できるので、記録保持部分としては極めて小さくできるという利点があり、原理的に超高密度化が可能なメモリ材料として期待できます。

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