
引用元:JFEスチール株式会社ホームページより2022年度のカーボンニュートラル戦略説明資料
https://www.jfe-steel.co.jp/company/carbon.html
鉄鋼製錬は、いろいろな意味でホットです。鉄鉱石(酸化鉄)をコークス(炭素)で還元する高炉の内部は2000℃もの高温に達しますので、物理的にホットと言えるでしょう。一方で、高炉の反応では熱とともにCO2が発生します。国内外でカーボンニュートラルにむけた取り組みが重視される現在、CO2排出量の削減は喫緊の課題となっており、生活の基盤を支える鉄鋼業界をとりまく状況は社会的にもホットな話題となっています。
生産量に注目すると、1990年代前半には他国をリードしていた日本の鉄鋼業ですが、国内需要の低迷や諸外国の生産拡大を背景に生産量が減少傾向にあります。このため、ニュースでも報じられているとおり、国内企業は海外進出に積極的な姿勢を見せています。日本の企業の強みは高性能な鉄鋼材料を製造する技術に限らず、エネルギーの高効率利用や副産物の再利用など環境対策技術も培ってきました。カーボンニュートラルに向けた新しい製鉄技術の開発でも、世界をリードすることが期待されています。
鉄鋼製錬に関わる全国の企業が会員となっている日本鉄鋼連盟では、2008年より革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50)を進め、高炉において還元剤の炭素を部分的に水素と置き換える技術の開発を行ってきました。さらにパリ協定の批准を受けて、2018年からは「ゼロカーボン・スチール」の実現が目標に掲げられています。高炉で使用される還元剤における水素の割合を高める技術や、高炉から排出されるCO2を水素と反応させてメタンに変え、再び還元剤として利用するカーボンリサイクルも開発が進んでいます。産業において発生したCO2を大気に放出せずに回収して貯留し(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)、さらに有効利用(Utilization)するというCCUSの技術も重要な研究テーマとなっています。
愛媛大学工学部においても、カーボンニュートラル実現にむけた研究が行われています。一例としては、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として、鉄鋼製錬の副産物であるスラグにCO2を固定するための技術開発が鉄鋼メーカーと共同で実施されています。ほかにも、大学内のプロジェクトとして、CO2を燃料に転換するメタネーションの研究が行われています。
人類が鉄鉱石を炭素で還元して鉄を作り始めたのは紀元前15世紀ごろと言われており、製鉄には長い歴史があります。古くは還元剤として木炭が用いられましたが、18世紀初頭にコークスを用いた鉄鉱石の還元方法が開発されたことにより産業革命の基盤が築かれ、19世紀には転炉による鋼の大量生産が可能となりました。そして現在、持続可能性が社会全体のキーワードとなり、鉄鋼製錬プロセスは大きな転換期を迎えようとしています。
鉄鋼業におけるカーボンニュートラルへの取り組みは多角的であり、上で述べた還元剤を炭素から水素へ還元剤をシフトする以外にも、大規模な変革の可能性が考えられています。鉄鉱石を還元して鉄を作る高炉から、鉄スクラップを溶融して鋼を再生する電気炉に生産の主軸を移していくことも鉄鋼業の選択肢です。ただし、鉄鉱石ではなくスクラップを原料として従来どおりの高品質な鉄鋼を作るためには、また別の技術的な課題を解決しなければなりません。
資源的にも豊富で大量に生産できる鉄鋼は、生活の中で他のものには替えることができない役割を担っています。最も身近な材料の1つである鉄が、カーボンニュートラルの実現という社会課題にどのように向き合って答えを出すのか、今後も目が離せません。
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