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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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半導体の発熱低減に貢献する計測装置の開発

2024年7月16日宮崎大学 工学部工学科 半導体サイエンスプログラム
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工学ホットニュース

 スマートフォンやパソコンを長時間使用していると熱くなった経験はないでしょうか?

 スマートフォンやパソコンの部品は、ほとんどが半導体からできており、半導体が電気の流れをコントロールしてデータを処理しています。

 半導体中ではその電流によって熱が生じてしまいます。発熱の原因は、主にジュール熱という電気が流れる際に材料中の電子と原子がぶつかり合って生じる熱です。発熱によって半導体の性能は低下し、耐用年数も短くなる問題があります。我々の生活に不可欠なインターネットを支えるデータセンターにも大量の半導体が使われていて、データセンターでは冷却にも多くの電力が消費されています。効率よく冷却する取り組みもありますが、半導体の発熱を抑制することは持続可能な社会に向けて重要です。

テーマの利用・大学での取り組み

 半導体の発熱の原因は、前述のジュール熱に加えて、非発光再結合による発熱もあります。半導体中には、電子(マイナスの電荷を持つ粒子)と正孔(せいこう、プラスの電荷を持つ粒子)があり、これらが動くことで電気が流れます。非発光再結合とは、電子と正孔が対になって消滅して(再結合して)、その時に電子と正孔が持っていたエネルギーが熱として放出される現象です。(反対に、発光再結合とは、電子と正孔が一緒になって消滅して(再結合して)、その時にエネルギーが光として放出される現象で、LEDはこの発光再結合を利用して照明等に活用されています)。 この非発光再結合による発熱も半導体の発熱の一因であり、抑制する必要があります。そこで我々の研究室では、半導体中のどこで非発光再結合しているかを測る装置を開発しました。光ヘテロダイン光熱変位法という写真の装置です。レーザー干渉計(レーザーの特性を利用して、距離を正確に測定可能)を使って、発熱による膨張を計測します。膨張量の大小で非発光再結合の多寡を測れます。50 pm(ピコメートル, 10の-12乗メートル)の熱膨張でも計測でき、5 μm(マイクロメートル, 10の-6乗メートル)の空間分解能で非発光再結合の位置と量を計測できます。原子1つの大きさが100 pmのため、原子1つよりも小さな熱膨張でも検出可能なほど高感度です。熱膨張が生じれば計測可能なので、ジュール熱も計測可能です。この装置で、どこでどの程度の熱が生じたのかを測れるので、発熱の対策を練ることができます。

今後の展望

 非発光再結合は、半導体結晶中の欠陥(結晶の原子の並びの不完全な部分)で生じると考えられています。つまり、欠陥が発熱の原因になります。スマートフォン、パソコンやデータセンターに主に使用されているSi(ケイ素)を原料とする半導体は、何十年もの多くの人々の研究により欠陥は低減されてきました。一方で近年話題になっているSiC(炭化ケイ素)を原料とする電力変換に使用されるパワー半導体は、未だ欠陥が多く、欠陥による性能の悪化や耐用年数の低下が問題になっています。我々の計測装置で、非発光再結合や欠陥を計測し、それらの低減に貢献する取り組みも進めています。SiCパワー半導体により電力変換時の電力損失を従来品より約6割減少させられるため、脱炭素化に貢献できます。SiCパワー半導体は電気自動車にも用いられ、需要は年々増加すると予想されています。需要増加に応えるために工場の新設などの設備投資が活発になっています。宮崎県でも、2024年8月にローム株式会社がSiCパワー半導体製造のための工場を稼働させる予定で、他にも半導体関連企業が宮崎県に進出してきています。そのため、今後、宮崎県内で年間1,000人の半導体関連人材が不足すると予測されており、人材育成が喫緊の課題になっています。そこで、我々はみやざき半導体関連産業人材育成等コンソーシアムを設立し、さらに、宮崎大学工学部では2025年4月から半導体サイエンスプログラムを開設します。同プログラムでは、物理や数学などの基礎科目と、半導体の原理から、作製、自然科学への応用までを幅広くカバーする専門科目を用意し、次世代スマート社会の実現と新しい科学の発展を支える技術者や研究者を育成することを目的とした教育を行い、人材を育成します。

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