膝関節は、骨、軟骨、筋肉、腱、靭帯からなる人体でもっとも複雑な筋骨格系の構造の1つです。膝関節は、加齢や怪我、病気等によって通常の動きができなくなったり痛みを伴なったりすることで、日常生活に支障をきたす場合があります。
膝関節の病気の代表例として、変形性膝関節症があります。症状としては、膝関節の動作時の痛みや膝関節の腫れが挙げられます。また、変形性膝関節症の原因として、膝関節の軟骨や半月板の変性・磨耗による荒廃と軟骨および骨の新生、増殖による骨の変形が挙げられます(立花 陽明:変形性膝関節症の診断と治療、 第20巻3号、236、(2005)より引用)。現在では、この変形性膝関節症の診断方法としてX線やMRIを用いた診断方法が一般的ですが、これらの検査方法では、ごく少量ではありますが放射線をあてなければならないことや設備が大きくなること、また静止画しか取ることができないことが欠点として考えられます。
AE(Acoustic Emission)センシングは構造物などの異常を非破壊で検査する際に広く用いられている非破壊手法です。これは材料内部から発生するAE波形をAEセンサで検知し、その波形を分析することで材料内部の状態を検査する方法です。
膝関節を動かす場合にも、関節内部からAEが発生するため、膝関節にAEセンシングを用いると、膝関節へ外部からエネルギーを与えることなしに膝関節状態の分析を行うことができます。
また、X線やMRIを用いた検査とは異なり、膝関節を動かしながら検査を行いますので,関節の動きや歩行状態の分析などを行うこともできます。さらには検査装置を小さくすることができ、X線やMRIと比較して検査設備が簡単なものになります。
本研究では、膝の周りに複数のAEセンサを取り付けて数回立ち座りの運動を行い、発生するAE信号を解析しながらAEパラメータを数値化します。そのAEパラメータにより関節内部の異常を明確にできます。この検査技術では、膝関節の痛みを感じる前の段階(初期段階)でも異常の状態を調べることが可能です。 加えて、この診断技術では複数のセンサを使い、簡単な信号処理を行うと多次元での関節内部の異常個所も分かります。
佐賀大学で発明された特許の技術を用いて、理工学部、医学部及び地域の産業企業との共同研究よるAEセンシング技術の活用した膝関節の診断装置を開発しています。この装置は、膝関節から検出されたAEパラメータを解析することで、膝関節の状態を診断できます。この診断装置開発が成功し実用化されると、健康診断等での利用により、多くの被検者のおおよその膝年齢を見積ることができます。
また、加齢などにより膝関節の軟骨が擦り減ることで痛みが出たり、特に高齢の方は変形性膝関節症などに罹患することで、歩行能力の低下が起こります。変形性膝関節症などの膝関節の疾患は、自覚症状のない患者も含めると,日本に約4000万人いると言われ,高齢者を中心に非常に多い病気です。この新しい診断装置を活用することで、変形性膝関節症の早期発見や治療が可能となり、膝関節診断技術は広く社会に貢献できるものと思われます。
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