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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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ダイヤモンドへの量子テレポーテーション
~量子計算、量子通信から量子インターネットへの飛躍~

2021年3月19日横浜国立大学 理工学部
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工学ホットニュース

 Science誌AAASが提供する世界最高峰のオンラインニュースサービスEurekAlert!において「Researchers teleport information within a diamond(研究者ダイヤモンドに情報をテレポーテーション)」が、2019年の閲覧数世界ランキング第6位に選ばれた。本研究は量子インターネットの要素技術となります。

 超スマート社会(ソサイエティ5.0)はビッグデータを処理する超高速のコンピュータと大容量の通信を可能とするインターネットに支えられています。コンピュータは1963年、インターネットは1969年にそれぞれ開発が始まったとされます。50年以上たった今、人類はさらに飛躍的に早い計算能力、絶対的に安全なインターネットへの進化を欲しています。その救世主となるのが量子コンピュータ、量子暗号通信、そしてこれらを統合した量子コンピュータネットワーク、いわゆる量子インターネットです。

 テレポーテーションはSFだけの話であり、実際にはあり得ません。しかしながら、人類は量子テレポーテーションと呼ぶ量子情報の瞬間移動には既に1980年代に成功しています。このテクノロジーを使って可能となるのが量子インターネットの心臓部である量子中継器であり、量子コンピュータと量子通信を接続する量子インターフェースです。

 内閣府は昨年、日本の将来を担う主要な科学技術として量子技術を選定し、今後30年間の活動方針である「量子技術イノベーション戦略技術ロードマップ」を策定しました。その中の主要要素技術として、量子メモリ、量子もつれ、量子メディア変換を掲げました。これらは量子テレポーテーションを原理とする量子中継器、量子インターフェースの必須アイテムであり、量子情報技術全般の根幹をなします。

テーマの利用・大学での取り組み

 横浜国立大学では、2020年10月に先端科学高等研究院に量子情報研究センターを新設し、量子計算、量子通信、量子インターネットの世界的拠点として「量子技術イノベーション戦略技術ロードマップ」の中核的役割を果たします。本センターは、その基幹事業であるムーンショット研究開発事業「量子計算網構築のための量子インターフェース」をセンター長である小坂英男教授がプロジェクトマネージャーとなりJSTより受託しました。本プロジェクトは、2020年に内閣府が制定した国家戦略制度におけるJST事業「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の一部です。本センターがとりまとめ機関となり、横浜国大、東大、産総研、物材機構、量研機構が課題推進者として、京大、NICT、理研などが参加者として参画します。また、2020年7月には、総務省委託研究事業「グローバル量子暗号通信網」の課題III「量子中継技術」を横浜国立大学がとりまとめ機関となり受託しました。本事業は、将来の量子インターネットにつながる大規模量子暗号通信網実現のための国家レベルでのコンソーシアムを形成するものであり、NEC、東芝、古河電工、浜松ホトニクス、 NICT、産総研、物材機構、東大、北大などが参加機関です。

 本センターで扱う研究テーマは、量子コンピュータ、量子暗号通信、そしてこれらを統合した量子コンピュータネットワーク、いわゆる量子インターネットです。現時点で我々の有する主要技術は、ダイヤモンド中のNV中心などの色中心を利用した量子メモリ、量子もつれ、量子メディア変換であり、量子テレポーテーションを原理とした量子中継器の構築に向けて材料からシステムまで包括的な研究開発を行っています。また、その機能を向上するためのフォトニック結晶技術、集積光回路技術、低温集積回路技術など、量子技術全般の研究開発の世界的拠点でもあります。

「ダイヤモンドの量子テレポーテーション」について簡単に説明します。ダイヤモンドは炭素(12C)で構成されています。この炭素の一つが欠け(図中のV)、その隣の炭素が窒素(図中のN)に置き換わった複合欠陥をNV中心と呼びます。その周囲には、中性子が一つ多い炭素同位体(13C)が天然で約1%存在します。このような量子の小宇宙で、光子と中性子を「量子もつれ」という状態にして、光子から中性子への量子テレポーテーションの実験を行いました。まず、欠陥に捕まった電子と炭素同位体の中性子を量子もつれ状態に準備します。その後、外から入ってきた光子が電子に吸収されて特殊な状態に遷移したときに、光子の状態が炭素同位体の中性子に転写されます。この際、中性子は光子とは直接相互作用していないため、テレポーテーションに例えられます。

今後の展望

 量子コンピュータを使うと、これまでのデジタルコンピュータでは宇宙の終わりまで計算時間を要するような問題に数日で答えられるようになります。私たちは、量子テレポーテーションを繰り返すことで、この量子コンピュータを量子通信でつないだ量子インターネットを構築しようとしています。量子インターネットの実現により大量のデータを安全に送受信できるようになり、社会が大きく変わると考えられています。世界に量子インターネットが繫がる瞬間を待ち望んでいます。

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