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メタンハイドレート~脱炭素社会の実現に向けて~

メタンハイドレート~脱炭素社会の実現に向けて~

多様な電解技術と解析技術でカーボンニュートラルに貢献

2021年10月8日山口大学 工学部応用化学科
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図.ナノ構造制御した非貴金属触媒を使ってアンモニアを窒素と水素に電気分解

工学ホットニュース

 日本政府は昨年10月、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量から植物などによる吸収量と削減量を差し引いた合計をゼロにする、つまりカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。化石燃料の枯渇や気候変動に対する懸念から、カーボンニュートラルは我が国だけでなく、世界全体にとっての喫緊の課題になっています。その鍵を握るのが、太陽光・風力などの再生可能エネルギーや水素燃料の利用拡大のための技術開発です。水素はエネルギーとして利用する際、CO2を排出しない理想の燃料ですが、現在の主要技術では、水素を製造する過程で大量の化石燃料を使用しています。一方、水の電気分解(2H2O→2H2+O2)による水素製造はCO2を発生しないプロセスであり、電力源に再生可能エネルギー(太陽光、風力など)を使えば、全工程でCO2を排出しないだけでなく、間欠性の自然エネルギーをいつでも使える化学燃料に変換することにもなります。しかし、常温で気体の水素を液化するには極低温が必要であり、安全かつ大量に貯蔵・輸送することは困難です。この問題の解決のため、適切な水素の「キャリア(輸送媒体)」を見つけることが大切です。水素社会の実現には、既存インフラ等を最大限活用することが望まれます。山口県は周南コンビナートを中心に全国有数の水素生産量を誇っており、産学公連携に基づく様々な取組が活発化しつつあります。

水素キャリアとしてのアンモニアの利用

 アンモニアは肥料を始めとする化学原料として世界中で使われてきましたが、最近、エネルギー分野での利用が注目されています。その理由の一つは、アンモニアが水素キャリアとなるからです。アンモニア(NH3)は分子中に17.8wt%の水素を蓄えています。アンモニアは液化が容易なことから、すでに液化アンモニアとして広く利用されており、貯蔵・輸送技術や安全対策は確立されています。そのため、水素をアンモニアの形でいったん貯蔵・輸送し、利用する場所で水素に変換する技術が注目されています。もちろん、水素に変換する過程でCO2やNOxなどの有害物質を出してしまっては意味がありません。

 再エネ由来の電力を使って、アンモニアを水素と窒素に分解できれば、ゼロエミッションが達成されます。アンモニアの電気分解では陰極で水素が発生し、その間、対極(陽極)でアンモニア酸化が起こります。全体のエネルギー効率を決めているのはアンモニア酸化の方であり、アンモニア酸化を素早く行うための触媒が必要です。白金系材料はアンモニア酸化に対して高い活性を示す触媒ですが、高価である上、吸着種による被毒を受け易い、あるいは含酸素窒素種を副生するという問題があります。そのため、地球上に豊富に存在し、高性能で堅牢な触媒の開発が強く求められています。山口大学工学部の研究グループは、積層二酸化マンガンの 1ナノメートル程度の層間にニッケルイオンと銅イオンを共存させ、アンモニア含有水を電気分解したところ、陰極では水素が、陽極では100%近いファラデー効率で無害な窒素が生成することを見出しました。ニッケルイオンと銅イオンが二酸化マンガン層間に共存しないと、この効果が現れないところが興味深いところであり、ニッケルイオンがアンモニア分子を捕捉する役割を、銅イオンがアンモニア-ニッケル間の電子移動を促進する役割をそれぞれ分担していると考えています。

研究成果を社会実装するために

 水の電気分解はクリーン水素製造のための有力な手段の一つですが、その大きな電解電圧が大規模導入を困難にしています。アンモニア電解の理論電圧は水電解のそれよりもはるかに小さく、水素製造にかかるエネルギー原単位を低減することが可能です。また、電極触媒を用いたアンモニア酸化反応は水素製造のためだけでなく、アンモニア直接燃料電池の燃料極にも適用できます。従来のアンモニア製造技術(ハーバー・ボッシュ法)は大量のCO2発生を伴いますが、最近、CO2を出さない新しいアンモニア製造技術が急速に発展しており、アンモニアベースのエネルギーシステムの構築が期待されています。

 貴金属系材料、主に白金上でのアンモニア酸化のメカニズムに関する研究は何十年も行われてきましたが、その本質は解明されていません。一般には段階的な脱水素化と続くN−N結合形成により、窒素と水が生成すると理解されていますが、今回開発した触媒のナノ空間で何が起こっているかについてその詳細な情報や直接的な証拠はまだ掴めていません。大学の研究室で培った電解技術を社会実装するためには、コストと性能のバランスや耐久性、スケールアップの検討に加え、反応プロセスを分子レベルで理解し、制御することが重要です。そのために、現在は電解中の反応物質・中間体の挙動や触媒の構造を多様な分光法を用いて「その場」観察したり、理論的な計算を適用したりしているところです。

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