気象庁の発表によると「2025年夏(6月〜8月)の平均気温は、1946年の統計開始以降、北・東・西日本で1位の高温となった」とされ、また総務省によると「令和7年5月から9月までの全国における熱中症による救急搬送人員の累計は100,510人で(中略)調査を開始した平成20年以降で、最も多い搬送人員」であったと発表されました。同じデータによると熱中症の発生場所は住居(敷地内すべての場所を含む)が最も多く、屋内での発生が一定の割合を占めていることが示されています。さらに、熱中症については、厚生労働省により、2025年6月より改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が強化されました。
一方、この文章を書いている10月末には、冬季に比較的暖かい豊橋市においても最低外気温度が10℃を下回り、築50年ほどの大学の居室では、早朝に仕事をしていると足元の寒さを感じるようになってきました。このように屋内においても夏の暑さや冬の寒さは無縁ではなく、とくに建築の性能が高くない場合、計画が不適切であった場合、あるいは適切な暖房や冷房が行われない場合は、快適でないばかりか、危険な室内環境が形成される可能性もあります。
そのため学問として、建築環境工学という分野があり「快適な室内環境を最小のエネルギー利用で達成する」ことが重要な使命とされており、正確な室内環境の把握が不可欠な要素となっています。
建築の運用時に、室内環境が安全、あるいは快適に保たれているかどうかを確認するために、測定機器を使用して把握する方法があります。たとえば、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」では、特定建築物(日本に約50,000棟)と呼ばれる比較的大きな建物の室内を対象に、維持管理を目的とした空気環境の測定(浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、相対湿度、気流、等)を実施することが義務付けられています。この測定は建物内各所において、一定の時間的かつ空間的な均一性を前提として、2ヶ月以内ごとに1回の頻度で実施されています。
当研究室では、これらの測定項目に加え、放射(日射による短波長放射や赤外放射と呼ばれる長波長放射)や、在室者の活動状況、建物の属性等についての把握を行うこと、かつ連続で測定を行うことで室内環境を多角的、総合的に評価できる手法について研究を行っており、多数の建物を対象にデータの蓄積を行っています。実際に使用している室での測定、なかでも在室者のいる条件での室内環境測定は、対象室の使用の妨げにならないよう、可能な限り少ない測定器に限定し、活動の邪魔にならない場所に設置して実施する必要があります。これらの測定では、理論計算も併用しながら、環境の時間的な変化や空間内の分布に関する検討、および快適な室内環境の形成に資する評価を行っています。たとえば在室者数や活動状況と室内の二酸化炭素濃度が測定できれば換気量の推定も行える独自の方法を用いて、温熱環境と空気環境の同時測定による評価も可能となっています。
独自の測定方法は、その測定精度についても実験室などで検証も行なっており、先述での換気量が測定できる手法以外にも、方向別の放射環境が把握できる簡便な測定方法や、在室者に専門的な知識がなくても室内の温熱環境が良好かどうかを把握できる、温度、湿度、気流、放射の影響を加味した新しい指標、等を開発しています。将来的には、快適な室内環境の評価以外にも、たとえば熱中症の対策に資するような室内環境の安全性の把握がいままでよりも簡便で、かつ一定の精度でできるようになると考えています。
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