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化学発光(ケミルミネッセンス)

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雪かきを楽しく安全に

2019年3月22日長岡技術科学大学 機械創造工学専攻
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工学ホットニュース

日本の国土の半分は雪国です。ところが、豪雪地帯と呼ばれるこの地域には全国の15%ほどしか居住しておらず、過疎化・高齢化も全国平均を10年から20年先行すると言われ、雪かきの担い手不足が年々深刻化しています。加えて、除雪作業中に事故に遭う人が後を絶たず、大雪の冬には全国で千件を優に超える事故が起き、100名を超える方が犠牲になっています。今から13年前、全国で152名の犠牲者を数える記録的豪雪(平成18年豪雪)の経験が、全国86国立大学の中で唯一、特別豪雪地帯に本拠地を置く本学として、そして雪害研究に取り組んできた私自身として、何か有効な手立てはないものかと本格的な活動を始める契機となりました。

ここでは、除雪の担い手を増やしていくための除雪ボランティアの受け入れ態勢の構築、そして安全性を飛躍的に高める技術や製品の開発について、これまで取り組んできたこと、具体的な成果など、ここで紹介していきたいと思います。

写真1 安全帯を装着し命綱を結んで雪下ろし(2019年2月9日於長野市鬼無里地区)

写真1 安全帯を装着し命綱を結んで雪下ろし
(2019年2月9日於長野市鬼無里地区)

写真2 真夏の雪かき道場(そら博、2017年8月5-6日於幕張メッセ)

写真2 真夏の雪かき道場
(そら博、2017年8月5-6日於幕張メッセ)

写真3 民間企業と共同開発した安全ハシゴ

写真3 民間企業と共同開発した安全ハシゴ

テーマの利用・大学での取り組み

 最近、各地で様々な災害が起きていますが、平成7年の阪神・淡路大震災以降、いち早く被災地にボランティアが駆けつけ、復旧や復興に尽力する姿が当然のように見られるようになりました。一方、豪雪地の除雪については、「自助が原則」という認識が強く、大変な時にはボランティアを受入れるという考えは一般的ではありませんでした。

 平成18年豪雪の際、各地で除雪の手が足りず、屋根の雪下ろしが追い付かずに住宅が押しつぶされ亡くなるという痛ましい事故も起きていました。一方、テレビや新聞による報道を見て雪国に駆けつけてくれたボランティアも大勢いました。ところが、地域にその支援を受け止める「受援力」が備わっていませんでした。そこで、私たちは、豪雪災害時に備えて、豪雪地帯の過疎・高齢集落に除雪ボランティアを受入れて参加者と地域の両方を訓練する「越後雪かき道場」を平成19年に創設しました。発足から12年間で、8県の28か所で延べ60回以上開催し、1,575名の修了者を輩出してきました。そして新潟県、群馬県、山形県、長野県の各地に暖簾分けをしてプログラムの普及にも努めてきました。これらの取組によって、広域除雪ボランティアの概念の定着と普及に所定の役割を果たしてきたと自負しています。平成29年度には自治功労者総務大臣表彰を、平成30年度には防災功労者総理大臣表彰を頂いています。

 並行して除雪安全の活動にも取り組んできました。雪に関わる事故の大半は除雪作業中に起きていて、その3分の2は高い所からの転落事故です。そもそも雪下ろしは高所作業であり安全対策は義務なのですが、残念ながら命綱を使っている人はほとんどいません。そこで1千件以上の事故の分析を踏まえ、屋根雪下ろしの安全講習プログラムを確立し、各地で毎年講習会を開催しています。さらに民間企業等と協働して雪下ろし用の安全帯や安全性を高めたハシゴを開発して市販化するなど、技術・製品の普及にも力を尽くしてきました。その一例を紹介します。除雪中の転落事故を詳細に分析するとその約半分がハシゴに関わる事故でした。そこで、積雪のある状況でも倒れにくく、屋根に乗り移る際にバランスを崩しにくい機能を付与したハシゴを開発し(平成29年12月から販売開始)、平成30年9月にはグッドデザイン賞を受賞しました。

今後の展望

 残念ながら、豪雪地帯の雪の事故は一向に減る気配がありません。むしろ深刻化しているようにさえ見えます。しかし、10年以上にわたる私たちの取組が着実に各地に浸透してきたという手ごたえは、最近になって力強く感じられるようになってきました。

 平成30年11月に、豪雪地帯の雪問題に取り組む仲間たちとともに「雪かきで地域が育つ: 防災からまちづくりへ」(コモンズ)を出版いたしました。執筆者には、国土交通省の豪雪地帯対策に関わる有識者会議のメンバー、全国の克雪体制づくりアドバイザーが名を連ねています。地域がまとまっての除雪活動や除雪ボランティア受け入れの仕組みづくりなど、全国の特色ある15の取り組み事例が、共助・共感・共創・共働・共生にカテゴリの下に紹介されています。そしてこれらの事例を読み解くための、支援と受援、ボランティア・地域福祉などの24を解説文も添えられています。

 この本を読み進めると、平成18年豪雪の時にはできていなかった「共助による除雪」や「ボランティア受入れ」に力を合わせて取り組みながら、コミュニティが成長していく姿が実に軽やかに描かれています。「豪雪地帯に発展はない」というあきらめは、単なる思い込みであったのでは、と思わせてくれるような前向きなストーリーからは、ソーシャル・イノベーションの萌芽も垣間見えることでしょう。

 いま、私たちの研究室では民間企業と協働で、雪かきをエンターテインメントに変える「スマートスコップ」の開発も進めています。スコップにIoTデバイスを装着して、除雪量や消費カロリー、除雪スキルなどを可視化しようとするものです。試作機を試したユーザーからは「つらく苦しかったはずの雪かき作業が楽しくなった」といった、非常にポジティブなコメントが多く聞かれます。「雪国だから」ではなく「雪国だからこそ」という視点で、これからも前向きに雪をとらえなおし、楽しみながら雪国を元気にしていきたいと考えています。

写真4 民間企業と共同開発中のスマート・スコップ

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