アイスランドのゲイシール(Geysir)間欠泉
アイスランドのゲイシール(Geysir)間欠泉
「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に進める1本の井戸で数万キロワット級以上の発電を実現する超臨界地熱資源開発の構造調査試錐(パイロット井)掘削が始まる。海外ではアイスランドが噴気を実現。米国、ニュージーランドも開発に着手している。次世代再生可能エネルギーとして2040~50年と見られる事業化に向け、いよいよ深部掘削のステージに入る。」(日刊工業新聞 2023年12月27日)
地下深部の天然のボイラーから取り出した高温の蒸気を用いてタービンを回す地熱発電は、2050年カーボンニュートラル実現に向けたベースロード電源のひとつとしてその普及促進が期待されています。しかし、日本は世界第3位の地熱資源保有国でありながら、自然環境保護や温泉資源との共存への対応が他国以上に難しく、地熱発電の利用において他国に後れを取っているのが現状です。これらの課題を解決する切り札のひとつが、従来型地熱資源よりもさらに深部に存在する温度400℃以上の超臨界状態にある熱水・蒸気を用いた「超臨界地熱発電」です。
地下資源には、銅や鉄、アルミ、石灰石、ダイヤモンドなどのように材料として利用される鉱物資源、石油や天然ガス、石炭などのようにエネルギー源として利用されるエネルギー資源、そのほかにも水資源などがあります。鉱物資源開発では、坑道や露天による採掘から鉱物資源を鉱石から取り出し純度を高める製錬・精錬の過程までが資源工学の主な守備範囲になります。製錬・精錬技術は都市鉱山に代表されるような鉱物資源のリサイクルにも利用されます。一方、石油・天然ガス開発は、探査・開発・生産の上流部門と精製・販売・輸送の下流部門に分けられ、地下工学を主体とする上流部門が資源工学の守備範囲です。石油・天然ガス開発技術は、地熱資源開発や二酸化炭素地中貯留(CCS)にも応用されます。
秋田大学国際資源学部のなかでも資源開発に関わる工学的な問題を扱うのが資源開発環境コースです。高効率、低環境負荷かつ持続可能な資源開発、そしてカーボンニュートラル社会の実現のための様々な問題解決にはいわゆる「資源工学」の能力だけでなく、地下資源の存在する地球や自然の仕組みをよく理解する「地球科学」の素養や人・地域・社会に配慮できる「人文社会」的な広い視野、そして世界を舞台に活躍できる国際感覚をも求められます。秋田大学国際資源学部には、資源開発環境コースの他に人文社会系の資源政策コースと地球科学系の資源地球科学コースがあり、資源工学を総合的に学べる点が他大学にはない大きな特長です。
資源開発環境コースの地球システム工学研究室では、超臨界地熱資源開発のための坑井(こうせい:エネルギー資源を取り出す井戸を特にこのように呼びます)を安全かつ効率的に、さらには低環境負荷で掘削し、仕上げる技術の研究をしています。地球システム工学研究室は、2018年からNEDOの超臨界地熱資源開発プロジェクトに参画し、現在、超臨界地熱資源量の評価が実施されている岩手県八幡平地域、岩手県葛根田地域、秋田県湯沢南部地域、大分県九重地域の4か所のうちの葛根田および九重地域のプロジェクトに参加、湯沢南部地域のアドバイザーを務めています。400℃を超える温度の地層を掘削するための坑内冷却技術や高温・高圧の地熱流体の生産に耐えられる強固な坑井に仕上げるためのケーシング設計手法やセメンチング技術などの確立に必要な様々な実験・シミュレーションを実施しています。
今後のNEDO超臨界地熱資源開発プロジェクトでは、上記の4カ所の超臨界地熱資源有望地域からまず1か所を選定し、2026年ごろ以降にパイロット井および超臨界地熱調査井の掘削を開始することを目指しています。パイロット井の掘削はほぼ従来の技術で掘削可能であると想定していますが、世界的にもほとんど例のない400℃を超える地層温度に達する超臨界地熱調査井の掘削・仕上げでは、新規開発の技術を導入した入念な事前準備と慎重なオペレーションが必要になります。パイロット井および超臨界地熱調査井の掘削プロジェクトに参加できるように、地球システム工学研究室では、これからも超高温掘削・仕上げ技術の研究開発を鋭意進めていきます。
エネルギー資源開発に必要な地下工学は、比較的浅部を扱う土木工学とは大きく異なる世界です。石油・天然ガス開発において発展してきた石油工学をベースとした地下工学は、安定かつ持続可能な化石燃料資源の確保だけでなく、2050年カーボンニュートラル実現のカギとなる地熱資源開発やCCSにも必須の技術です。多くの皆さんに将来のエネルギー資源開発の担い手となる人材・技術者を目指してもらえることを我々も期待しています。
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