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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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未来の無線情報通信に向けた
テラヘルツ電磁波制御と革新的材料制御

2021年11月19日東京農工大学 工学研究院
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工学ホットニュース

 2020年、5G無線情報通信が商用化され、私たちはこれまでにない通信速度を手に入れ始めています。本学では、5G無線情報通信の未来の形である6G無線情報通信の実現に向け、日々研究に取り組んでいます。6G無線情報通信の実現に必要不可欠なのが「テラヘルツ電磁波」を操る技術です。

 テラヘルツ電磁波は、これまで無線情報通信に使われてきた電磁波よりも周波数が高く、産業に使うことができていません。電磁波の周波数が高くなると、電磁波の波の大きさは小さくなり、遠くまで飛ばすことができないからです。周波数の高いテラヘルツ電磁波は、例えて言うなら“歩幅の小さな子供”です。大人と比べると、同じ歩数を歩いてもどうしても進む距離は短くなってしまいます。

 電磁波を遠くまで飛ばすためには、自然界に存在する材料を、ドーム状に加工したレンズがよく用いられています。しかしながら、自然界に存在する材料で、テラヘルツ電磁波を操るには限界があります。そこで、本学では自然界の材料を超越する「人工的なスーパー材料」を生み出すことに成功しました。この人工的なスーパー材料を産業で使えるようにするために、日々研究を進めています。

テーマの利用・大学での取り組み

 2021年6月に論文発表した未来の無線情報通信に向けた取り組みを紹介します。

 東京農工大学の研究グループが独自に生み出した人工的なスーパー材料は、自然界の材料では叶わないくらいにテラヘルツ電磁波を曲げることができます。テラヘルツ電磁波を曲げる度合いのことを、屈折率と呼んでいます。例えば、虫メガネの屈折率は1.5くらいですが、スーパ材料の屈折率は15とその10倍以上です。

 スーパー材料で作ったレンズを、ローム株式会社のテラヘルツ電磁波を放射する光源に搭載したところ、今まではスプレー状に飛んでいたテラヘルツ電磁波が、ビーム状に飛ぶようになりました。これにより、テラヘルツ電磁波を飛ばしたい方向に遠くまでピンポイントで飛ばすことができます。

 レンズの大きさは直径が5ミリメートル、厚さは髪の毛よりも細い厚さ23マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)です。レンズの表と裏の両面に、厚さ0.5マイクロメートルの銅のワイヤーが309対配置されています。銅のワイヤーがスーパー材料の源として動作し、屈折率がレンズの端から中央に向けて高くなるようになっています。レンズの端の屈折率は4で、レンズの中央の屈折率は15です。この屈折率の傾斜を利用して、光源から放射されたスプレー状のテラヘルツ電磁波を、ビーム状にしています。

 スーパー材料によるレンズを、光源から10ミリメートルの距離に配置して、最先端の実験装置で実験しました。光源から放射されるテラヘルツ電磁波の拡がりは52度とスプレー状でしたが、スーパー材料によるレンズにより8度までビーム状になっています。ビームの強さも4倍まで強くできることを実証しました。

今後の展望

 今回、スーパー材料によるレンズを用いることで、自然材料だけでは叶わなかったテラヘルツ電磁波の操作を可能にしました。ただ、今の段階ではすぐに産業に用いることはできません。産業で使用できるようになるためにクリアしなければならない課題が、レンズとテラヘルツ電磁波を放射する光源との融合、そしてパワーの向上です。現在レンズと光源を1ミリメートルまで近づけた場合にも、テラヘルツ電磁波をビーム状にできることを確認できています。さらに研究を進めて、レンズと光源を一体にできれば、高度にテラヘルツ電磁波を操ったコンパクトなチップを実現することができ、様々なIoT機器に搭載することが可能になります。

 また、現段階ではテラヘルツ電磁波の飛距離はまだまだ短いですが、今よりも10倍、100倍のパワー向上を目指し、新しい構造のレンズの研究も進めています。このチップが完成すれば、全ての機器をインターネットにつないで利用できるようになる無線情報通信の未来の形を実現することができます。

 もうひとつ、テラヘルツ電磁波の波の形を渦状にして、通信速度の限界を打ち破る新しい構造のレンズの研究にも挑戦しています。波の形を渦状にすることで、今よりも膨大な量の情報を、より速くやり取りできるようになります。

 現在、研究しているスーパー材料によるレンズを6G無線情報通信で産業化し、将来的にサイバーフィジカル社会の実現に貢献していきたいと考えています。

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