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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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磁石とコイルで内部の傷を探し出せ!

2021年9月10日大分大学 理工学部
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工学ホットニュース

 皆さんはプリンを手作りしたことはあるでしょうか?卵と牛乳と砂糖、それとバニラエッセンスを少々。材料を混ぜて蒸して固めて…。様々な工程を経てようやく完成したのに、小さな穴が沢山空いてしまいガッカリしてしまう経験をしたという人はいませんか?この穴の事を「巣(す)」と言ったりもしますが、この「巣」は、ドロドロに融かした鉄を冷やして固める際にも生じる場合があります。鉄製品(鋳造品)の中にこの「巣」が生じてしまうと製品の強度を下げてしまう原因になります。特に鉄の内部に生じてしまう「巣」を「引け巣」と呼びますが、これは外観からでは判別できません。せっかく作った製品を切るわけにもいかないので、何とか製品を壊さずに中の様子を知りたい。そんな時に使われているのが、非破壊検査と呼ばれている技術です。高い品質を維持するためにも非破壊検査はとても重要です。この他にも非破壊検査は老朽化した橋やトンネルの監視等に使用され、今後、この需要はさらに高まると予想されています。

非破壊検査技術の種類

 鉄製品(鋳造品)の内部に発生してしまった「引け巣」を検出するために、現在はX線検査や超音波検査が使われています。病院で使われているレントゲンがX線検査法です。X線は内部の状態を画像として表示することができます。しかし、装置が高額だったり、放射線を使用するため、取扱いに専門の資格が必要だったりと誰もが気軽に使えるというものではありません。一方、超音波は、コウモリが自分と他者との距離を把握するに使用していますが、これを応用した検査法が超音波検査です。この検査法を鉄製品等に使用して内部の状況を把握することができます。しかし、この場合、水やグリセリンを鉄の表面に塗る必要があったり、鉄の表面が粗いと上手く検査することができなかったりと、いくつかの制約があります。

新しい検査センサーの提案

 大分大学ではこれらの制約を解消するために、電磁力加振を使った新しい検査法について研究しています。この提案した電磁力加振センサーの構成を動画1に示しています。

動画1:電磁力振動センサーの構成

 このセンサーは中心に穴の空いた永久磁石にコイルが巻きつけられています。これを「引け巣」が生じているかどうか分からない鉄(鋳鉄材)の上部に配置し、永久磁石の穴の中に振動を検知する素子を差し込みます。この提案したセンサで鉄の表面を振動させ、その振動具合を振動検出素子で検出します。この提案センサによる振動の発生原理を動画2に表しています。この提案センサ内のコイルに交流電流を流すと、電磁誘導によって鉄の表層に渦電流が発生します。フレミングの左手の法則によって、渦電流と永久磁石の磁力からローレンツ力がZ方向に発生します。渦電流の向きはコイルに流している交流電流の周波数に応じて変化します。それによってローレンツ力の向きも変化するため、鉄の表層に直接振動が発生することになります。この振動の変化を比較することで、内部に発生した「引け巣」の検出を行います。

動画2:電磁力加振の原理

 以上の検査原理を、3次元電磁界解析と3次元変位解析を併用して現象解明を行います。数値解析は動画3のフローに沿って行いますが、ここでは最後の変位解析結果のみを表します(図1)。図1では矢印の色が赤色に近いほど鉄内部の変位が大きいことを示しています。シミュレーション結果から、鉄内部の「引け巣」の有無によって鉄内の変位が異なることが分かりました。そこで、実際に実験を行い「引け巣」の検査が可能であるかを確かめます。解析シミュレーションによる結果(動画4)と実験結果(動画5)を比較すると、おおよその「巣」の位置を検出することが可能であることが分かります。

動画3:解析の手順

鋳鉄材内部の変位ベクトル

図1:鋳鉄材内部の変位ベクトル

動画4:変位解析結果

動画5:検証実験結果

新しい検査センサーの応用

 この方式は検査対象の大きさや形状、測定する環境に最適なコイル・磁石・振動を検出する素子を自由に決定することができるというメリットがあります。その応用例の一つを紹介します。図2に改良を施したセンサーと検査する鉄の立体断面図を示します。断面図から分かる通り先ほどのセンサーと形状はほとんど同じですが、永久磁石の中心の穴が2つに増えています。これによって振動検出素子を2個に増やすことができます。振動素子が2つに増えることで、信号の差をとることが可能になります。その結果、検出信号のノイズを低減させることができるというメリットがあります。ノイズとは周辺の電気機器から発生する電磁波や、環境音など様々な要因が含まれます。これによって安定した検査を行うことができようになります。上述と同じ手順で解析と実験を行い、比較を行った結果が図3です。波形の形は変わりますが、こちらもシミュレーションと実験で同様の傾向が得られています。また、現在の方式では振動検出素子は接触式のものを使用しています。これを非接触のものに変更することができれば、応用の幅をさらに広げることができます。【研究担当:大学院 丹羽章太郎】

図2:差動センサーの立体断面図

図3:解析結果と検証実験による比較

大分大学の研究事例

 その他にも大分大学で研究を行っている事例を紹介します。これは温泉の多い大分県ならではの研究です。天然温泉は源泉からパイプを使ってを引き込まれています。しかし、パイプを長年使用していると、内部に温泉の成分が沈殿物としてが堆積していきます。堆積した沈殿物は配管の詰まりや、温泉の温度を下げる原因になります。現在は高圧洗浄機や薬品を使用して沈殿物を除去しています。しかし、「どの場所」に「どれくらいの量」の沈殿物が堆積しているか評価することができれば、効率よく低コストで沈殿物を除去することができます。そこで、この提案したセンサーを使用してパイプの中の沈殿物の量を検知・評価する研究を現在進めています。

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