
図1 聖テレサ女学院の回廊のパラボラアーチの再現
図1 聖テレサ女学院の回廊のパラボラアーチの再現
アントニオ・ガウディのような、美しい構造物を設計したいという願望を持つという経験は、建築技術者、土木技術者であれば、一度はあると思います。しかし、そのような設計は誰にでも可能という訳ではありません。ここで、ガウディの作品を概観すると、美しさのみならず、安全性も十分に満たしていることがわかりました。そこで、大胆ではありますが、安全性の観点から、十分に最適な形状を作り出すことができれば、自動的に美しさもその形状に付与できるのではないか、という仮説のもと、ガウディ作品の再現を試みました。
図1は、無機質な門型のデザインの初期形状を出発点として、聖テレサ女学院の回廊を再現できるか、という試みを、構造最適化手法を用いて行いました。初期形状に適切な境界条件を設定し、力学的に最も安定となるように最適化計算を繰り返し実施すると、独特の曲線を有するアーチが出来上がりました。これをいくつか重ね、レンダリングを施すと、聖テレサ女学院のパラボラアーチに概ね近い構造体の再現に至りました。ガウディの極めて美しい設計は、高度な数理科学的な素養が基盤にあることを確認できました。
この知見に基づき、土木構造物である橋梁への応用を検討しました。これまで非常に重要な構造物のみ、意匠性を取り入れた設計が行われてきましたが、上記の知見を組み込んだCAD等に導入することができれば、誰でもガウディに肉薄した設計が可能となると考えています。
図2の箱状の初期形状に地面への設置点の位置と、橋梁上面は平面を保持させるという境界条件を設定させて最適化計算を実施しました。局所最適解としての候補がいくつか現れましたので、学部の学生へのアンケート結果を用いることにより、人間が好むデザインが把握でき、この学習結果を基に最適形状を決定しました。このモデルは3Dプリンタで出力可能であり、橋梁の実際の仕上がりを目視や手触りで確認できますし、載荷試験を行うことにより安全性も確認できます。実際の構造性能はこのような取り組みは、今後、建築設計や土木設計に関する実習に取り入れる予定です。
香川大学創造工学部は、1つの学科(創造工学科)のみで構成されており、現在、その学科に属する7つのコースに学生は所属します。今回の検討は、建築・都市環境コースと呼ばれる、建築工学と土木工学の両方を専攻できるコースと、造形メディアデザインコースと呼ばれる、プロダクトデザインやアートを先行するコースの融合によるプロジェクトです。このように、香川大学創造工学部では、コース間で柔軟な研究が可能となっており、異分野融合による全く新しい研究を協力に推進します。
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