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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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食品加工・殺菌技術の新展開-静電気と食品の境界領域の拡大-

2022年2月4日群馬大学 理工学部
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工学ホットニュース

 食品プロセスなどにおいて殺菌処理は不可欠の工程であり、一般には加熱殺菌が用いられています。しかし加熱は食品品質の変化を伴う操作で、場合によっては好ましくない操作となります。(刺身は加熱すると刺身ではなくなってしまいます!)このため様々な非加熱殺菌技術が提案されていますが、私たちはこの一環として高電圧パルスの利用を試みています。高電圧パルスとは間欠的に数マイクロ秒間、10kV以上の電圧を印加する操作で、電極を通して水または液状食品に印加した場合に電界効果を生じさせることができます。この電界効果によりバクテリアの細胞膜が破壊され、殺菌することが可能と考えられています。これを一般に高電圧パルス殺菌と呼んでおり、私たちをはじめ世界各国で研究例があります。また同じように高電圧パルスを印加した場合、電極形状などを変更することにより水中で放電プラズマを発生することも可能です。放電プラズマが発生する系では各種の活性種やUV、衝撃波などが同時進行的に発生するため、この現象を殺菌に利用することも可能です。また放電プラズマにより溶存有機物の分解など水処理への応用も期待できます。

テーマの利用・大学での取り組み

 微生物を囲んでいる細胞膜は脂質分子が二重層を形成した脂質二重層がベースとなっています。またこの細胞膜は電気的にみると絶縁性が高い構造物です。ここに外部から高電圧パルスを印加すると細胞膜内外に電位差が生じ、やがて細胞膜破壊現象が誘引できると考えられています。この殺菌原理は一般の加熱殺菌とは全く異なるもので、食品の変質・劣化を最小限にしながら殺菌可能な技術として期待されています。またプロセスとして考えた場合にも加熱殺菌処理は試料の加熱、冷却プロセスが必要となるのに対し、パルス殺菌ではこの操作は必要ないので、エネルギー効率のよい殺菌システムを構築することが可能と考えられます。

 雷は大気中で起こる放電プラズマです。放電プラズマは私たちの生活においても蛍光灯、プラズマディスプレイなど身近なところで利用されています。しかし従来の放電プラズマの利用はガス中(または減圧下)に限られていました。私たちの研究室では放電プラズマの水処理への応用を試みています。従来放電プラズマを水中で発生させることは困難と考えられてきましたが、私たちは高電圧パルスとガスバブルの利用で、安定した水中放電プラズマを形成させるシステムを提案しています。このシステムで殺菌に加え、水中有機物の分解を確認しています。

 群馬大学理工学部では2021年度改組により、食品工学プログラムが新設されました。既存の食品工学の枠にとらわれることなく、私たちの高電圧技術のような異分野の技術も取り入れ、安心安全でかつ高付加価値な食品の開発・製造に取り組んでいきたいと考えています。

今後の展望

  • 非加熱パルス殺菌の実用化と新規食品開発
    現在、広く用いられている殺菌方法は加熱殺菌です。厚労省のホームページには食中毒で問題となる腸管出血性大腸菌を死滅させるためには75℃で1分間以上の加熱、または100℃の湯で5秒間程度、と記載されています。このように加熱処理は微生物の殺菌に極めて有効・確実な方法です。しかし食材によっては加熱できないものもあります。また加熱によりビタミンなど有用成分の損失や、タンパク質の変性も起こってしまいます。このため非加熱殺菌法の開発が求められています。私たちの高電圧パルス殺菌技術はこの非加熱殺菌法として有望な技術です。今後も様々な食材の高電圧パルス殺菌を検証し、実用化を試みていきます。
  • 放電プラズマやオゾンを用いた高度水処理技術の開発
    水は飲用または生活用として私たちが生きていくうえで欠かせないものです。私たちは水中放電プラズマや水溶存オゾン(オゾンも高電圧技術の産物です)を用いて、殺菌に加えて、界面活性剤、廃油成分の分解除去を試みてきました。現在、水道水は大規模な浄水場で調整し、長い水道管を通して供給されています。また下水はやはり長い下水道を通し、大規模な下水処理場で処理し、河川に放流しています。しかし将来はもっとコンパクト・小規模な上下水システムが求められてくると考えられます。私たちの放電プラズマやオゾンを用いた高度水処理技術はこの要望に応えられるのではないかと考え、日々研究開発を進めています。

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