ドローン搭載LiDARによる樹形計測
ドローン搭載LiDARによる樹形計測
現在、自動車の自動運転のための環境認識技術の研究や、ドローンによる上空からの地上の環境認識技術の研究が進められている。これらには、LiDARが用いられる。
LiDAR(Light Detection And Ranging) は、レーザ光(通常は赤外線レーザ光)を対象物に照射し、その反射光を測定して距離を計算する方式である。
LiDARには、ToF方式を用いるのが普通である。ToF(Time Of Flight)方式は、レーザ光(通常は赤外線レーザ光)を対象物に照射し、それが戻ってくるまでの時間を計測して距離を測定する方式である。
LiDARのToF方式には、3つの方式があるが、そのうち、dToF(direct Time of Flight)+スキャン型は、レーザパルスを出射し、対象物に当たって帰ってくるまでの時間から対象物までの距離を求める。50m~200m先まで、距離を求めることができ、レーザ光を鏡で反射させながら、鏡を動かすことで広範囲をスキャンし、それで位置が判明した点群データを解析すれば、その対象物が何であるかもわかるので、自動運転などの車載用や、ドローン搭載用として用いられる。高価である。一方、iToF(indirect Time of Flight)方式では、sin波や矩形パルス波などの周期的なレーザ光を照射し、対象物に反射して帰ってきたリターン光を受光して、照射光とリターン光との位相差を計測する。位相差は対象物までの距離に比例するので、そこから距離が計算できる。KinectV2やAzureKinectなどの深度センサでは、この方式を採用している。そして、受光素子はピクセル単位で積分回路を持ち、位相を計算する。すなわち、イメージセンサのように面単位で処理を並列に行う。その場合、平たく小型化が可能で、比較的安価に作れる。短所は、長距離の計測ができない。10m以下の距離の測定は可能である。
ドローンに搭載したdToF+スキャン型方式のLiDARを用いて、上空から地上に向けて赤外線レーザを照射し、戻ってくるまでの時間を計測することにより、ドローンと対象物までの距離を計測する。ドローンの位置と姿勢は搭載されているGPSとIMUで計測する。これら、ドローンの位置と姿勢と対象物までの距離のデータを使って、対象物の表面に赤外線レーザが当たって反射した点の絶対位置のデータが得られる。各点は三次元の絶対位置座標と色の情報を持つデータであり、そのような点が対象物の表面に沿って得られる。これらは、まとめて点群データと呼ばれている。
このような技術を果樹の樹形の計測に応用する研究がおこなわれている。和歌山県は果樹の栽培が盛んで、生産高では、柿、梅、ミカン、イチジクが全国1位、キウイが3位、桃が5位というフルーツ王国である。しかし、果樹栽培の従事者の高齢化と後継者不足が問題となっている。そこで、スマート農業の観点から、果樹栽培をハイテクで支援しようとする研究が始まっている。その手始めとして、ドローンに搭載したLiDARを使って、柿の落葉時の冬に、圃場の上空から柿の木の樹形を計測する研究がおこなわれている。
一方、iToFを採用したAzureKinectなどの深度センサは、人の姿勢の変化の時系列データを得ることができるので、モーションキャプチャシステムとして利用されている。これらのセンサを利用することにより、様々な人間の動作を計測し、フィードバックを提示する研究がおこなわれている。例えば、スポーツの初心者の動作フォームを計測し、あらかじめ計測しておいた熟練者の動作フォームと比較することにより、誤った動作箇所の指摘と、修正方法をアドバイスとして提示するなどのシステム開発がおこなわれている。
LiDARのToF方式の、最新の方式として、dToF+Flash型は、11インチiPadPro(2020年モデル)に用いられた。dToFであるが、(自動運転用やドローン搭載用とは異なる方式で)、レーザ光を一面に(スキャンではなく)同時に照射し、反射レーザを一度にイメージセンサのように絵として受光する方式である。この方式では、(自動運転用やドローン搭載用のような)長距離を測定することはできないが、室内程度の距離であれば、計測できる。自動運転用やドローン搭載用のような鏡を回すようなスキャン機構が不要なので、平たく小型化が可能で、比較的安価に作れる。この方式の発明により、最近のスマホにも深度センサが搭載されているモデルが数多く発売されるようになった。深度センサが搭載されていると、壁や床の平面の検出が容易になるため、ARで床に物体を張り付くように表示することも可能になった。スマホは非常に多くの人が購入するので、この方式の深度センサを応用したアプリを開発すれば、多くの人に使ってもらうことができる。今後、スマホ搭載の深度センサを応用してARを使ったエンターテイメントのアプリや、健康・スポーツ分野などでのアプリの開発がますます盛んに行われていくだろう。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。