2023年12月1日
中国地区
広島大学 工学部第二類
電子システムプログラム
准教授 富永依里子
皆さんは、半導体という電子材料の名前を耳にしたことがあると思います。パソコンやスマートホン、家電製品や自動車など、私たちの生活に身近なありとあらゆる電子機器に搭載されていて、今や私たちの生活は半導体なくしてはなりたたないほど、半導体は現代社会の維持発展に必須のものとなりました。半導体には、半導体の王様と呼ばれるシリコン(Si)のほかに、砒化ガリウム(GaAs)やリン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)のような2種類以上の複数の元素から構成される化合物半導体と分類されるものがあります。Siはどちらかと言えば電流を制御して動作させる電子デバイスによく用いられているのに対し、化合物半導体は発光ダイオード(LED)やレーザーダイオードのような光を発する発光デバイスに用いられることが多いものです。私たちの家庭や学校などにLED照明が導入されるようになって久しく、化合物半導体の方が身近な半導体デバイスの応用例として皆さんの実感が伴うものかもしれません。
さて、こうした様々な化合物半導体デバイスや電子機器には希少金属(レアメタル)と呼ばれる、地殻中の存在量が比較的少なく、精錬コストが高い金属元素がたくさん含まれています。半導体が現代社会のありとあらゆる場所で使用されているということは、そのたくさんの半導体デバイスが素子寿命を迎えた後は大量のゴミとして廃棄されることになります。
半導体デバイスに用いられている高品質な化合物半導体は、有機金属気相成長法や分子線エピタキシー法のような、多量の電力や高真空の維持を必要とし、時には危険なガスを用いることもある半導体形成方法で作られています。筆者の研究グループでは、広島大学工学部第三類生物工学プログラムの海洋生物工学研究室(岡村好子教授: https://www.mirai-kougaku.jp/eco/pages/200911_03.php)と共同で、安価で安全に、多量の電力を必要としない方法で半導体を形成する新しい技術を開拓しようと、生物の力を借りることに着目して研究を進めています。我々は、生物の中でも海から採取した海洋細菌に焦点をあて、化合物半導体の構成元素を回収し、ただ回収するだけではなく再度半導体を合成する細菌のはたらきについて研究しています。これまでに鉛イオン(Pb2+)を硫化鉛(PbS)の微小な結晶にする細菌(図1)やIn, Ga, Asを回収する細菌の採取に成功しています(図2)。
将来的には、前述の半導体のゴミから細菌が再度半導体へとリサイクルしてくれるようなエコシステムを構築できたらという夢を胸に、本研究を推進しています。
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