2021年4月9日
関東地区
宇都宮大学 工学部
計測化学研究室
欲しいモノをたくさん生産し、消費する。このプロセスにより私たちは豊かな生活を獲得してきました。その一方で、生産プロセスにおいて欲しいものではない産物が得られてしまうのも事実です。この副産物は廃棄されればただの「ゴミ」となります。しかし、これに新しい機能を付加することができれば、「ゴミ」ではなく「新しい材料」として再利用できます。また、そもそも副産物を出さない、あるいは出しても生命や環境への負担が少ない材料を用いれば、環境にやさしい技術の創出に貢献できます。当研究グループではこの2つの観点から専門の「分析化学」にアプローチすることで、環境負荷の小さい分離および分析技術を開発してきました。
鉄鋼は鉄鉱石から作られます。このとき得られる鉄鋼と同じくらいの重さの副生成物が産生します。この副生成物は鉄鋼スラグと呼ばれています。この鉄鋼スラグは90%以上が工業原料としてリサイクルされます。主な用途は道路の路盤材です。私たちは、鉄鋼スラグに環境を浄化する能力をつけることで、付加価値を高めている研究をしています。例えば、水酸化ナトリウムの水溶液で鉄鋼スラグを処理することにより、セシウム(I)に対する吸着能力が発現します。また、硫酸で処理すると環境汚染物質として懸念されているセレン(IV)を吸着できるようになります。あらたに、鉄鋼スラグに含まれる酸化鉄の触媒反応により汚染水の浄化を始めています。
水は地球上における生命活動において必要不可欠な物質です。それは、生命や環境にとって負荷が小さいことを意味しています。水が固体状態になった氷も同じことが言えます。私たちは塩や糖などの水溶液を凍結してできた氷の中にできるマイクロ構造を利用してマイクロ・ナノ粒子や細胞のサイズ分離やDNAの形状選別を実現しました。また、この手法を応用することで、タンパク質や無機イオンが氷表面とどのように相互作用しているかといった氷の性質の解明も行っています。これにより、環境中における化学物質の動態に氷が与える影響を明らかにするための基礎的な知見を得ることができると考えています。
化学物質が地球環境の変動に与える影響は大きい一方で、化学の力でその負荷を低減させることが化学者である私たちの使命であると考えます。今後も新しい物質を探索し、それらを利用した分離および分析技術の開発により、SDGの実現を目指します。
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