磁石やバッテリーなど、セラミックス材料は私たちの身近なところで使われています。セラミックス材料の性能はそのミクロな構造とも密接に関わっています。一方、セラミックス材料は、大きさや形、向きの異なる無数の結晶から構成されるため、そのミクロな構造はとても複雑になります。近年、AIの技術を駆使した材料の研究開発が盛んに進められていますが、ミクロな構造に適用するにはサイバー空間でモデル化する必要がありました。これまでは顕微鏡で撮影した材料のミクロな構造の画像を、専門家が1つ1つの画素を見て解析していましたが、現実の3次元のミクロな構造(膨大なデータ)をモデル化するには、非常に時間がかかるという問題がありました。一般的な画像処理ソフトウェアを使った場合、自動で高速に解析することができますが、複雑なミクロ構造を持つセラミックス材料では画素の判定に間違いが生じ、高精度にモデル化することが難しいケースもありました。
東京農工大学の研究グループでは、自動運転や医療用画像処理にも用いられる深層学習を強力な磁石への応用が期待される鉄系高温超伝導セラミックス材料のミクロ構造に応用しています(図1)。電子顕微鏡法によって撮影されたミクロ構造の3次元データを使って、専門家と材料の研究に携わる大学生たちが高精度な教師データを開発しました。2次元データでは判別の難しかった、奥行方向の情報も加味した教師データをAIに学習させることで、従来よりも高精度な深層学習による画像処理に成功し、複雑なセラミックス材料としては世界最高レベルのIoU精度を実現しました。従来は1枚の画像処理を専門家が数時間から数日かけて行っていましたが、これにより、数百枚の2次元画像から3次元のミクロ構造デジタルツインをわずか数分間で予測することに成功しました。
実在のセラミックス材料の複雑なミクロ構造をサイバー空間で手軽に取り扱えるようになると、今後のデータベース基盤や生成AIの進展と相補して、これを活用した材料の機能を予測するシミュレーションや、ミクロ構造形成を制御するモデルが実現すると予想されます。また、これまでの発想には無い、新たな機能発現のカギとなる特定のミクロ構造部の「見える化」が進むことで、研究者たちにより高度な知見をリアルタイムでフィードバックできるようになることが期待されます。
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