私たちの思考や感情、行動はすべて、脳を中心とした神経システムの働きから生まれています。こうした生体活動を体の外から捉える手段として注目されているのが「生体信号」です。生体信号は、体のどの部位からどのように計測するかによって異なる種類の信号が得られます。たとえば頭皮表面に電極を取り付けると、脳内の神経細胞が発する電気活動を「脳波」として捉えることができます。「筋電位」は筋肉の活動時に生じる電気信号で、力を入れるほど振幅が大きくなります。心電図も馴染み深い生体信号の一つで、心臓の拍動に応じた特徴的な波形が得られます。生体信号はヒトの内的な状態を強く反映しているため、計測信号から状態を正確に認識できれば、思い通りに機器を操作できるインタフェースや、病気の兆候を早期に発見する医療技術の実現につながります(図1)。
広島大学 大学院先進理工系科学研究科 知能生体情報学研究室では、生体信号の処理・認識とその応用に関する研究を行っています。特に近年は、深層学習をはじめとする人工知能(AI)技術を活用し、生体信号データからヒトの状態パターンを自動的に認識する手法の開発に取り組んでいます。
しかし生体信号には、個人差や時間変動が大きく、ノイズの影響も受けやすいという課題があります。また計測コストが高いため、AIモデルの学習に十分なデータを集めることも容易ではありません。こうした「不確実で規模が限られたデータ」から効果的な認識を行うには、信号の変動に適応する仕組みと、少ないデータでもAIモデルを効率的に学習できる仕組みが必要です。そこで本研究室では、生体信号の不確実性を確率モデルで表現する手法や、計測データの特徴変動に合わせてモデルが自己学習する手法、また多くの人に共通する特徴を抽出して少数データでも学習可能な手法などを開発してきました。これらの手法をもとに、筋電位信号で操作できるロボット義手の開発や、脳波からてんかん発作を自動検出する技術の開発を進めています(図2)。
AI技術やウェアラブルデバイスの普及により、生体信号を利用した技術の実用化は急速に進んでいます。一方で生体信号は個人を特定できる生物学的な「指紋」でもあり、プライバシー保護への配慮も欠かせません。当研究室では、こうした倫理的・社会的課題にも向き合いながら研究を続けていきます。
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