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脳と血液のインターフェイスは生命維持に必要である

2022年10月28日
京都工芸繊維大学 工芸科学部

 脳の血管は、血液内のタンパク質、アミノ酸、低分子、イオンまでもが脳内に入らないように、血液脳関門と呼ばれるバリア機構が存在します。脳は神経の集合体であるので、血液内物質の自由な出入りを血液脳関門で阻害し、必要物質はトランスポーターと呼ばれる輸送体タンパク質にて必要量取り込みます。一方で、血液脳関門は脳と血管のコミニュニケーションを完全に閉ざすと、脳が孤立する可能性があります。そこで、脳の脳室周囲器官と呼ばれる脳部位が脳幹の複数箇所に存在しており、血液情報を直接的に感知し、身体の異常を常にモニターしています。

 脳室周囲器官は、脳の脳幹にいくつか存在しています。脳幹は、脳を構成している視床下部や延髄などを含み、身体に必要不可欠な機能を持っています。私達の研究室では、脳室周囲器官の機能的意義について研究を行っています。研究テーマとしては;1)血管透過性の仕組み、2)体温調節におけるTRP温度感受性タンパク質の機能解明、3)細菌感染時における生体防御機構として働くTLRタンパク質の機能、4)感染による脳のミクログリア増殖の機能。これらの研究においては、新しい脳の機能について理解が進み、医学・薬学・生命科学の発展に貢献するとともに、病気の原因解明や新しい治療方法の芽を生み出すことを目指しています。

図1 「脳室周囲器官は血液と脳の情報交換ができるインターフェイスである」図1 「脳室周囲器官は血液と脳の情報交換ができるインターフェイスである」

 抗体を用いてグリア細胞(赤色)と血管(青色)を可視化してあります。Aは、終板脈管器官、Bは脳弓下器官、Cは最後野と呼ばれる脳室周囲器官を示しています。血管の緑色蛍光物質は、血液脳関門を欠く脳室周囲器官の血管(青色)を通過して、脳内に入り込んでいることが分かります。

図2 「暑熱環境における体温調節にTRPV1が関与する;脳の熱中症抑制機構」図2 「暑熱環境における体温調節にTRPV1が関与する;脳の熱中症抑制機構」

 正常な普通のマウスは、32.5℃の暑熱環境でも一定の体温を維持していることがわかります(Aの黒線)。しかし、TRPV1遺伝子を欠く特殊なマウスは32.5℃の暑熱環境では、体温を一定に保つことができず高体温(熱中症)状態になります(Aの赤線)。その機構は、TRPV1遺伝子欠損マウスは、唾液塗布という行動により体の熱を放出できないためです(B,C)。

図3 「細菌感染時における脳のTLRタンパク質;未だに未解明の脳の炎症開始機構」図3 「細菌感染時における脳のTLRタンパク質;未だに未解明の脳の炎症開始機構」

 グラム陽性細菌由来物質の受容体TLRタンパク質2がミクログリアに発現(黄色)していますが、グラム陰性細菌由来物質の受容体であるTLRタンパク質4はアストロサイト(黄色)に発現しています。よって、脳への感染情報経路は細菌種によることが分かります(C)。

図4  「脳のミクログリアは感染により増殖する;感染による脳の炎症機構解明」図4  「脳のミクログリアは感染により増殖する;感染による脳の炎症機構解明」

 グラム陰性細菌由来物質を投与し、発熱を伴う弱い炎症を引きおこさせ、マウスの脳でミクログリアの増殖を調べると、顕著なミクログリア増殖(黄色)がおきていることが分かりました。脳室周囲器官(A,D, 終板脈管器官; B,E, 脳弓下器官; C,F, 最後野)

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