身の回りにある金属製品を、結晶方位解析装置(Electron Backscattered Diffraction Pattern:EBSD)により観察すると、結晶粒が見えてきます。結晶粒の大きさ、向いている方向、隣接する結晶間の角度差などは、材料自体の強度や特性に影響を及ぼします。そのため、結晶粒の特性を把握することは材料開発にとって不可欠であり、適用ができる範囲を明らかにするためにも重要となっています。
図1 高圧ケーブル防護管表面の結晶の模様
図2 菊池パターン
図3 銅板の電子顕微鏡像と結晶方位解析
街中で見かける高電圧ケーブル防護管(亜鉛メッキ)、スキー場のリフト搬器フレーム表面をよく見ると不思議な模様があります。図1のように、光の反射により異なるコントラストを示す不思議な模様の一つ一つは、金属が持っている結晶粒です。結晶粒と結晶粒の間には粒界があり、結晶粒径の大きさ、および結晶粒界の数は、材料自体の強度に影響を及ぼします。結晶粒が一つだけでできている製品等は単結晶、多数の結晶粒からできている製品等は多結晶となります。
一般的に加工された金属製品の表面を観察しても、直接結晶粒を見ることは中々できませんが、走査型電子顕微鏡と結晶方位解析装置を使うと可視化することができます。電子顕微鏡中で金属材料に電子線が当たると、金属材料の表面で電子線の回折・散乱・干渉が起こり、図2のようなパターン(菊池パターン)を得ることができます。このパターンをシミュレーションと照合することで、結晶の向いてる向きが分かります。
解析例として、図3-1、-2に市販されている銅の薄板の結晶方位解析結果を示します。図3-1は、電子顕微鏡で観察を行った銅の薄板の断面写真です。白黒の写真であり、若干結晶に由来するコントラストの差異がみられますが、一様な平滑な面であると観察できます。しかし、同じ領域を結晶方位解析装置で観察すると、図3-2の様に結晶粒の形・色による結晶の向きがはっきりと観察できます。また、解析を行うと結晶粒径の分布や結晶粒界の角度・長さと言った内容も調べることができます。
冒頭でも述べたように、結晶粒の大きさの分布は、材料自体の強度に影響を及ぼします。また、結晶粒の向いている方向(結晶面)は、揃っていると向きにより特性(電気的等)が変わり、方向により強度が変わります。このため、様々な方法により作製した金属材料が持つ結晶粒を、結晶方位解析装置により調べることで、特徴を把握し、材料にとって最適な使用方法を考えることが出来ます。
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