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非光学式原子間力顕微鏡

2018年2月20日|山梨大学 工学部
非光学式原子間力顕微鏡(非接触モード)で観察したシリコン表面。黄色の1辺は2.2nm。

結晶表面に特有でその固体内とは異なる原子配列、すなわち表面超構造は、微細化技術の発展に伴い応用面でも重要となってくる。そうした原子スケールでの観察を目的とした顕微鏡として、走査型プローブ顕微鏡がある。検出信号としてトンネル電流を用いる走査型トンネル顕微鏡が有名であるが、ここでは電気的導電性を必要としない原子間力顕微鏡、その中でも原子間力検出に光てこなどを一切用いない、非光学方式の事例を挙げる。光学系をなくして小型化・複合化が容易となり、光敏感な試料の観察への応用も期待できる。

何が見えているのか?

画像は、シリコン表面、詳しくはSi(111)-7x7清浄表面の表面超構造像である。白い輝点の1つ1つは不対電子をもつ最表層付加原子(アドアトム)であり、この表面超構造の特徴を表してDAS(Dimer、Adatom、Stacking fault)構造と呼ばれる。このシリコンの結晶表面には不対電子が存在し、大気中で準備したならば直ちに大気中の成分と反応して7x7表面超構造は消失する。(ほとんどは、自然酸化膜に覆われることになる。)そのため、こうした表面超構造の観察には真空度が非常に高い環境を準備する必要がある。具体的には-10乗Torr程度(1兆分の1気圧よりも低い)の真空度、すなわち超高真空(UHV; Ultra High Vacuum)が必要となる。

どうやって力を検出するのか?

シリコンのアドアトムには不対電子が存在するため、探針先端に同じシリコンを用いて原子スケールで近づけた場合、試料表面原子の不対電子と探針先端原子の不対電子との間で力が働く。非接触領域で、この力によるカンチレバーの共振周波数のシフト信号を原子スケールの走査方式で画像化すると、ここにあるような原子配列像が得られる。通常の原子間力顕微鏡はカンチレバー端のプローブ背面にレーザーを照射する光てこ方式であるが、ここではカンチレバーの根元にピエゾ抵抗体(応力により抵抗値が変化する材料)を設けたピエゾ抵抗方式を採用している。カンチレバー端のプローブ先端で原子間力を受けるとカンチレバーが歪むが、最も応力がかかるのはカンチレバー根元の固定点である。ここにピエゾ抵抗体を組み込み、そのわずかな抵抗変化を走査に十分な速度で検出・増幅できれば、電気信号としてプローブ顕微鏡システムに入力して制御・画像化できる。

なぜ、非光学式なのか?

実はこの顕微鏡像は、極低温装置に組み込んで極低温環境下(~5K)で観察したものである。極低温環境にとって光は熱源となるため好ましくなく、外界とは数枚の熱シールドで光遮断されるのが一般的であり、そのため顕微鏡を設置できるステージ空間は非常に限られている。光てこ方式では狭い空間での光学系の構築が難しい課題となるが、ピエゾ抵抗方式では非光学式の簡素さ故に、このような組み込みを容易にできる。本事例にとどまらず、さらに多方面への応用が期待される。

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