流体エネルギー資源には石油・天然ガス・熱水などがあり、それらの多くは地下深くの岩石の孔隙(岩石粒子のすき間)中に埋蔵されています。地下1,000メートル以上の深さから流体資源を効率良く生産するためには、地下環境を想定し、複雑な孔隙ネットワークの中で、それぞれの流体資源がどのように動くのかを見極めることが重要です。今回は多孔質岩石やマイクロ流路モデル(岩石の微細構造を模した人工流路チップ)を用いて、多孔質媒体中における流体資源の動的挙動観察技術について紹介します。
図1 マイクロ流路モデル(多孔質砂岩の孔隙モデル)の外観
図2 液液(界面活性剤-原油)二相流での動的挙動観察の例
図3 薄く成形した岩石での流体挙動観察
図1のマイクロ流路モデルは、X線CTなどを用いて代表的な貯留岩(多孔質砂岩)の微細構造を解析し、その孔隙分布をガラス基板に転写加工して作製された人工流路モデルです。本モデルは無色透明ですので、液体やガスの挙動・状態を直接観察することができます。混相流(気液二相流、固気液三相流など)も観察することができますが、一般的に混相流は複雑な挙動になりやすく、加えて地下環境(高温高圧、水相中の塩やpHの影響、孔隙内移動など)を考慮すると、さらに流動解析が困難となるため、今回のように実験やシミュレーションを通じて基礎理解を深めることが重要となります。
多孔質モデルを用いて、流体間(液液、気液)や固液界面での動的挙動を観察することで、例えば、複数の流体が混合していく様子(水と油のエマルジョン形成など)や、地下環境で生成される析出物による孔隙閉塞(目詰まり)プロセスなどを見ることも可能です(図2)。このような流体の動的挙動に数値解析ソフトを用いて画像処理を行い、これまで不明瞭だった現象(物理的メカニズム)の理解を補足し数値化することで、各流動パラメーターの相関関係を見出すことにもつながります。
また地下環境を想定した場合には、岩石表面の凹凸や濡れ性をガラス上に再現することは難しく、固液界面の微視的な解析が課題となります。そこで顕微鏡で流体の動きが観察可能な程度に貯留岩を薄く成形し(図3)、流体を流すことで孔隙内における流体と岩石表面の固液反応(濡れ性改質や微粒子の吸脱着など)を明瞭化し、界面挙動を考慮した流体挙動の評価システムの構築を進めております。そのほかに例えば、マイクロ蛍光X線分析などを併用し、薄く成形した岩石の元素マッピングを作成することで、一連の流動実験の中で、岩石を構成する鉱物種ごとに流体との界面解析が可能か検討中です。これまで見えなかった流体の動きや現象の理解が進むと、流動性を表す各種パラメータの効率的な取得や流動シミュレーションの計算精度向上につながりますので、流体エネルギー資源の開発・生産の効率化への貢献も期待されます。
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