光触媒による水分解反応は持続社会のエネルギーとして注目されている水素を水から光エネルギーを用いて製造する方法です。近年、Na, Mg, Al, 等の金属イオンを添加(ドープ)したSrTiO3に有効な助触媒を組み合わせた光触媒がこの反応に効率よく作用できることが見出されました。SrTiO3光触媒は太陽光の近紫外領域の光を利用して光触媒反応を起こすことができ、太陽光照射下でもこの反応を進行させることが出来ます。この水分解反応に高効率で働く光触媒はどのようになっているのでしょうか。
写真1 光触媒の走査電子顕微鏡写真
写真2 光触媒の走査透過電子顕微鏡写真と元素分布、緑:光触媒を構成する元素の分布、赤:光触媒にドープした元素の分布
写真3 光触媒の走査透過電子顕微鏡写真と元素分布、緑:酸素生成反応助触媒の分布、赤、桃:水素生成反応助触媒の分布
水の分解反応に用いられる光触媒は、この反応に作用できる条件を満たす半導体微粒子上に反応活性点となる助触媒が組み合わされています。近年、化合物半導体として金属酸化物を用いた光触媒において、酸化物光触媒自体に異種金属イオンをドープすることでその性能が向上することが見出され、更に、この反応に有効に作用できる助触媒の開発も進み、光触媒表面上で起こる水素生成反応、酸素生成反応、それぞれに働く助触媒を組み合わせることで、光触媒性能の著しい向上が見出されました。その顕著な例として、有効な水素生成反応助触媒と酸素生成反応助触媒を組み合わせた金属イオンドープSrTiO3光触媒があります。この光触媒は波長が390nmまでの光に応答でき、太陽光照射下でも水の分解反応を進行させることができます。そこで、その様子を観測しました。
この光触媒と水をフラスコに入れ太陽光の下に置いてみました。(動画)一見、フラスコの中は光触媒が水中で懸濁しているように見えますが、よく見ると無数の細かな泡が絶え間なく生成していることが観測できます。この泡は水が光触媒作用により分解して生成した水素と酸素の混合気体です。このようにこの光触媒は太陽光照射下でも水の分解反応を進行させることできます。
次に、この光触媒はどのような状態になっているのか調べてみました。先ず走査電子顕微鏡で観測してみました。(写真1)この写真に示す様に光触媒自体は粒子の大きさが数百nm程度の微粒子であることが判ります。そこで、光触媒の構成元素分布の分析が可能な走査透過電子顕微鏡を用い光触媒の状態を観測しました。光触媒粒子自体ですが、光触媒を構成している元素と性能向上のためドープした金属イオンの分布を観測しました。(写真2)その結果、ドープした金属イオンが粒子中に均一に存在していることが観測できます。
更に組み合わせた水素生成反応、酸素生成反応助触媒の分布を観測しました。(写真3)その結果、水素生成反応助触媒と酸素生成反応助触媒の光触媒粒子表面上での分布が大きく異なり、光触媒表面上に水素生成反応が起こる場所と酸素生成反応が起こる場所をすみ分けていることが観測できます。このように、光触媒を構成している要素がナノメートルレベルで制御されることにより、水の分解反応に高効率で作用できる光触媒が成り立っていることが判ります。
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