自然界には、身体を作る材料の色と異なる色がついている不思議な生き物がいます。クジャクやタマムシ、熱帯魚のネオンテトラが有名です。これらの生き物は、光の波の大きさと同じくらいの小さな構造により光に作用し、特定の色の光だけを選んで反射しています。光輝く美しい色が特徴で、日常で目にする色素による色と区別して、構造色と呼ばれています。このような構造を人工的に制御して作り出せるようになれば、色を自由に操れる、すなわち光を自由に操れる材料が創出できると期待されています。
クジャクの羽に見られるキラキラとした輝き(図1)は表面や内部から外に反射する光が互いに干渉し合い、ある特定の波長の光が強調されることで見える現象です。それらの光輝く色は色素によるものではなく、数百ナノメートル(ナノは 10 億分の1)の微細な構造と光の作用によって見える「構造色」と言うものです。発現する色は微細な構造の大きさにより変化し、構造が保たれる限り永遠に変色することはありません。
構造色を人工的に作り出す方法のひとつに、粒径の揃った微粒子の自己組織化によるコロイド結晶の発現があります(図2)。粒径が10 nmから0.1 mm程度の微小な粒子は一般にコロイド粒子と呼ばれており、これを水などの液体に分散させたものがコロイド分散液です。粒径の揃った粒子のコロイド分散液をガラスに塗布した後乾燥させると、粒子が結晶状に規則配列した組織体が得られます(図3)。粒子が勝手に配列して組織を作る現象は自己組織化と呼ばれています。この組織体はコロイド結晶と呼ばれ、粒子の大きさが光の波長と同程度になると、積み重なった構造により可視光を回折するようになり、光り輝く澄んだ色調の美しい発色を見せます。コロイド粒子を並べる台(基材)の表面の性質や凹凸を変化させることで、粒子の自己組織化の結果、すなわち粒子の配列を変化でき、コロイド結晶の構造を制御することができます。これにより光との相互作用の仕方を調整することで、発色を制御することが可能になります(図4)。色を制御するということは、色々な色の光が混ざった白色光から、選択的に特定の波長の光を取り出して反射できるということです。これを自由にできるようになれば、光を分けたり、曲げたり、溜めたり、操ることができる材料の創製に繋がります。
現代は電気の時代ですが、電気に替わり光を信号伝達に用いたり、光のエネルギーにより引き起こされる現象を動力に変換したりするフォトニクスの時代がやってくると言われています。構造色の研究は、それを支える技術開発に貢献できるかもしれません。
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