人間の五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)の中で、外部から得る情報の約8割は視覚から得ていると言われています。コンピュータグラフィックス(CG)は、視覚に訴えるビジュアルメディアのひとつであり、映画やCMなどの映像制作、ゲームやVR/ARといったエンターテインメント分野はもちろん、建築設計やインテリアデザイン、医療やシミュレーションといった分野でも広く利用されています。CGは、さまざまな分野における基盤技術のひとつとして、私たちの生活や社会に大きな影響を与えています。
図1. インテリアデザイン・建築設計への応用を目指したレンダリング技術
図2. 表面下散乱光を考慮したレンダリング技術
近年、現実世界を計算機上の仮想空間で再現する「デジタルツイン」が注目を集めています。現実世界の様々な現象をリアルに再現するためには、現象をモデル化し、計算機上でシミュレーションする高度な技術が必要です。私たちの研究室では、デジタルツインへの応用を目指し、視覚に訴えるコンピュータグラフィックス技術の開発に取り組んでいます。具体的には、光源から視点に到達する光の伝播をシミュレーションする画像生成(レンダリング)技術(図1参照)や、流体などの自然現象の動きをモデル化して再現するビジュアルシミュレーション技術の開発を行っています。 牛乳などの飲食物や大理石など、私たちの身の回りには半透明な素材が多く存在します。光源からの光が半透明素材の表面に入射すると、一部の光が内部に透過し、素材内部の微粒子で何度も散乱を繰り返しながら、再び表面から出射して視点に届きます。この現象は「表面下散乱」と呼ばれています。私たちの研究室では、この表面下散乱を効率的にシミュレーションするレンダリング技術を提案しています。図2は、大理石で作られた浴室や仏像のレンダリング結果を示しています。このアニメーションは、氷の融解をビジュアルシミュレーションしたものです。氷でできた龍のモデルが、周囲の暖かい空気によって徐々に融解し、水へと相転移する過程をシミュレーションしています。さらに、溶けた水が氷の表面を滴り落ちる様子も再現されています。このシミュレーションには、氷や水を粒子の集合として表現する「粒子法」を用いています。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。