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反射音の存在しない「無響室」とは?

2020年2月14日|島根大学 住環境工学Ⅰ・Ⅱ、建築環境実験
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「無響室」とは、自由音場を仮想的に実現するために、壁・天井・床を完全吸音処理した空間です。自由音場とは、残響と呼ばれる反射音が生じず、直接音のみが観測される空間を言います。無響室が反射音のない空間である一方、適切な残響は、日常生活や音楽鑑賞などおいて、空間を快適で豊かな音環境にしますが、音源の制作や製品の開発、各種実験や聴感評価の実施においては、残響は障害となることもあり、精密な測定を行うためには無響室が用いられます。以上のように、無響室は音響測定・音響の心理評価において障害となる残響を取り除くことができる特殊な空間です。

 無響室は、例えるなら何でも描くことができる白いCANVASのようなものです。そのため、無響室の使途はエンジニアや研究者の自由な発想により、無限に広がっています。代表的な用途としては、マイクやスピーカーの性能の測定、騒音計などの感度補正、各種音源の発生音の測定などに活用されており、さらに自動車や家電、電子機器などの放射音の測定や人間を対象とした聴感実験などで応用され、工学の分野で幅広く利用されています。

 無響室の設計手順は複雑ですが、仕様のキーポイントとしては完全無響室・半無響室の選択および吸音層の仕様が重要です。無響室は、天井・壁・床面からなる6面が完全に吸音仕様である完全無響室と、床面を除いた5面が吸音仕様である半無響室に大きく分けられます。

 完全無響室は、音声や騒音の研究開発全般に利用されますが、吸音処理された床面上を歩行できるよう、金網が施工さており、重量物は積載できず、移動性と作業性も低下する特徴があります。一方、半無響室は、床面を反射面とするためコンクリートなどの剛な素材で構成されているため、測定対象機器の設置が容易であり、作業性も良いですが、測定時には床面からの反射が含まれていることに注意(または利用)する必要があります。

 吸音層は、無響室の重要な性能条件の一つである点音源から発生した音源の音圧レベルが距離減衰特性を満たしているかを確認する必要があり、室の容積、測定対象領域(有効容積)、測定対象の周波数なども考慮する必要があります。低周波帯域の測定が要求される場合には、室の容積を大きくする必要があり、吸音層には低周波帯域の吸音性能に優れた吸音くさびを用いるのが一般的です。

 島根大学建築デザイン学科では、6面が吸音くさびで構成された完全無響室を保有しており、音響測定、音源制作および編集、音響設計に関する研究、人間を対象とした聴感評価などの目的で無響室を利用しています。

 特に、コンサートホールやスタジオの音響特性の評価および設計、フリーアドレス方式のオフィスの音響設計、遠隔会議システムを用いられる会議室の音響設計、空港周辺の航空機騒音が人体に及ぼす影響についての聴感評価などの研究が行われており、これらの研究を通じて、快適な音環境の構築と研究成果の創出を目指しています。

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