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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

魅惑のビスマス~ 結晶づくり ~

2019年10月25日
熊本大学 工学部

はじめに

 ビスマスの結晶は、作り方を工夫すると、なんとも不思議な形と色になります。普通に溶かして固めただけのビスマスは、こんなに綺麗ではありません。専門家でも他の金属と見分けがつかないぐらい、ありきたりな外観です。綺麗な結晶を作ることは、昔は匠の技でした。しかし今では、どうしてこのような形や色になるのか、そのメカニズムがしっかりと解明されています。知識があれば、誰でも簡単に作れます。特別な装置は必要ないので、家でもできます。費用は7000円ぐらいです。お金のかかる大人の道楽だと思われるかもしれませんが、家族で遊園地に行くより安いです。多分、遊園地に連れて行くよりも、家族は感動すると思います。何回も作り直すことができるので、案外安上がりです。週末家でゴロゴロしながら片手間でできてしまう、非日常的な感動体験です。

 この実験はかなり有名で、ユーチューバーの定番ネタの一つです。ここは国立大学56工学部のホームページということで、大学らしく、ユーチューブでは語られない学術的なトリビアを交えて紹介します。

準備するもの

1. 結晶を作る実験に必要なもの

保護メガネ

溶けたビスマスが飛び散って目に入らないよう、保護メガネを必ず着用しましょう。大学では、実験をやるときに必ず保護メガネを着用することになっています。アマゾンやホームセンター、作業衣屋などで買えます。500~1000円ぐらいです。一生ものなので、安い買い物です。

ビスマス 1kg

純度99.99%のものがアマゾンで買えます。4000円ぐらいです。高純度のレアメタル(希少金属)なのに、驚きの安さです。買ってきたビスマスには色がついていますが、そのまま使っても大丈夫です。色がついているのは、表面に酸化したビスマスの膜があるためです。酸化したビスマスは酸化していないものよりも比重が小さいので、ビスマスを溶かしたときに浮いてきます。そのとき取り除けばOKです。

カセットコンロ

無ければ台所のコンロでもOKです。

ステンレスのカップ3個

百均で買えます。加熱するので、取手がプラスチックのものはNGです。一つはビスマスをコンロで溶かすためのものです。二つ目は溶けたビスマスの表面に浮かんだ酸化膜を捨てるためのものです。三つめは予備です。上級編の実験で使います。上級編では、溶けたビスマスを空のカップに移し替えます。

ステンレスのピンセット

溶けたビスマスから結晶を拾い上げるのに使います。百均で買えます。

ステンレスのトレー(2枚)とトレー用の網

二枚のトレーのうち、一枚はピンセットなどを置くのに使います。もう一枚は予備です。上級編の実験で使います。網はカップをコンロで加熱するとき、カップの下に敷きます。百均で買えます。BBQ用の網は使わない方がよいです。ワイヤーが細いので、長時間加熱すると破れてしまいます。

ステンレスのフォーク

溶けたビスマスの上に浮かんだ酸化膜を取り除くのに使います。スプーンでもOKですが、フォークの方が使い勝手がよいです。百均で買えます。

プライヤー(大きいペンチ)と小さいペンチ

ピンセットにくっついたまま固まってしまったビスマスの結晶を取り外すのに使います。その他にも、ビスマスの入ったカップを持ち上げるのに使います。カップは重いので、プライヤーはなるべく大きくて頑丈そうなものを選んでください。ホームセンターで買えます。1500円ぐらいです。ビスマスを入れたカップを加熱する前に、プライヤーで持ち上げてみてください。持ち上げるのに四苦八苦するのであれば、危険なので、上級編の実験は止めましょう。小さいペンチは百均で買えます。

2.アクセサリー加工に必要なもの

穴あけドリル(ピンバイスもしくはリューター)

ビスマスの結晶に穴をあけるのに使います。ホームセンターで買えます。ピンバイスは手動ドリルで1500円ぐらいです。ビスマスは金属ですが、軟らかいのでこれでOKです。リューターは電動ドリルで700円ぐらいです。

革紐

手芸店で買えます。1 m当たり150円ぐらいです。ネックレスに必要な長さは50 cmぐらいです。

革紐用の金具

手芸店で買えます。紐に取り付ける金具とホックを合わせて350円ぐらいです。

実験1:結晶を作る

ビスマスをカップに入れて、コンロで加熱します。カップは小さすぎてコンロにそのまま置けないので、下に網を敷きます。安全のため、弱火で慎重に加熱しましょう。溶けると色が変わってきます。酸化膜が薄いうちは綺麗な色ですが、厚くなるとグレーになります。ビスマスが全て完全に溶けたら、コンロの火を消します。フォークを使って酸化膜を手早く取り除きます。

しばらく待つと、酸化膜に皺が寄ってきます。このとき、表面の温度は大体ビスマスの融点です。結晶は、これよりも大分低い温度で発生します。専門用語で言うところの、過冷という状態です。結晶は、カップの内壁と、溶けたビスマスの表面(酸化膜の裏)に発生します。表面のものは、浮かんだ状態で、下向きに成長します。出来た頃合いを見計らって、これをピンセットで拾い上げます。拾い上げたら、トレーの上に置いて冷やします。ピンセットについたまま固まってしまったら、ペンチで取り外します。手で触ると火傷します。気をつけましょう。

トリビア1: 安全にかかわる大事な話

 ビスマスの融点は271℃ですが、実際はもっと高温になります。ビスマスは熱が伝わりにくい(熱伝導率が小さい)ので、カップの中のビスマスが全て溶ける頃には、溶けたビスマスの表面は350~400℃ぐらいになっています。そのまま加熱し続けると、温度がさらに上がります。強火で加熱した場合は5分もかからずに1000℃近くになります(放射温度計を使って測定した実測値です)。ちなみにアルミの融点は660℃です。アルミ製のカップや網だと溶けてしまうのでNGです。ステンレスの融点は物によって異なりますが、大体1400~1500℃です。溶けたビスマスの入ったカップはとても熱いです。調理用のミトンの耐熱温度はせいぜい300℃です。手で持ち上げると危険です。プライヤーを使いましょう。

トリビア2: 形について

 ビスマス結晶の特徴的な形は骸晶(がいしょう)と呼ばれます。英語に直訳するとSkeletal Crystalということになりますが、この呼び方はあまり一般的ではなく、Hopper Crystal(ホッパー結晶)と呼ばれることが多いです。ホッパーと聞くと昆虫のバッタを連想してしまいますが、ここではそういう意味ではなくて、日本語で言うところの "すり鉢状" の形を表現する言葉です。土木作業現場でよく見かけるコンクリートや砂利を集積する容器もホッパーと呼ばれます。14世紀にイングランド王国のジェフリー・チョーサーが著したカンタベリー物語の一節が初出の言葉のようです。

 骸晶を作るための条件は、専門的な言い方をすると、"結晶化の駆動力がやや大きいこと" です。駆動力の大きさは、過冷の大きさで決まります。過冷つまり、結晶が実際に発生する温度が融点(凝固点)より低ければ低いほど、駆動力が大きいです。過冷は冷却速度が速いほど大きくなりますので、速く冷やせば骸晶になり易いです。速すぎるとNGです。樹枝状晶になってしまうか、小さい結晶の集合体になります。ゆっくり冷やすと、表面が滑らかで中に空洞のない理想的な結晶になります。このような結晶は工業的には利用価値が高いのですが、骸晶が欲しい人にとっては嬉しくないです。ある程度結晶成長のメカニズムについて心得のある人は、"結晶を大きく成長させるにはできるだけゆっくり成長させればよい"と考えがちなのですが、これは理想的な結晶を作るための条件であって、骸晶を作るための条件ではないです。過冷度が大きいと、結晶の成長は早いです。ショックを与えると一瞬で固まることもあります。

 大きい骸晶を作るためには、溶かすビスマスの量を増やす必要があります。しかし、ビスマスの量を増やすと、体積に対する表面積の比率が小さくなってしまうので、カップが冷めにくくなってしまいます。これは骸晶になり難い条件です。小さくてもよいのであれば、量が少ない方がうまくいきます。

実験2: 大きい結晶を作る

 大きい結晶を作るためには少し工夫が必要です。テクニックは2種類あって、一つはカップを早く冷やす方法、もう一つは結晶が発生するきっかけを作る方法です。

 カップを強制的に冷やす場合には、底を冷やすのが一番簡単です。底から成長した結晶を取り出すためには、上に残った溶けたビスマスを別のカップに移し替えなくてはなりません。この実験は少し危ないので、上級編です。必ず大人と一緒にやってください。水で冷やすのは危険です。液体金属が水の中に入ると、水蒸気爆発します。

 結晶が発生するきっかけを作る方法は、クリップを使うやり方が一番手軽です。クリップを溶けたビスマスの上に浮かべます。入れるタイミングを工夫しないと、うまく成長しません。この実験は危なくないので、色々試行錯誤してみてください。コツは静かなところでやることです。うるさいところだと、振動がきっかけになって結晶が発生してしまいます。

 クリップをうまく使えば、底から成長した結晶を取り出すこともできます。"上が完全に固まって、中が完全に固まっていない" タイミングを見計らって、再加熱します。そうすると、カップに接しているところだけが溶けて、中身を丸ごと釣り上げることができます。

トリビア4: 色について

 色が変わる原理は、結晶の形やサイズが変わる原理とは無関係です。ビスマスに色がつくのは表面に酸化膜ができるためです。酸化はビスマスが熱いときにだけ起こります。溶けた状態から急冷すると全く色がつきません。ビスマスの結晶が単色にならないのは、冷え易いところと冷え難いところで酸化膜の厚さにムラができるためです。

 小さい結晶を黄色や赤紫色にするのは比較的簡単です。青色にするためには、少し高い温度で長時間保持する必要があります。結晶を拾い上げたとき、表面に固まっているところがあれば、そこに乗せておきましょう。

 酸化膜はサンポールで落とすことができます。サンポールは薄い塩酸です。ホームセンターで買えます。300円ぐらいです。捨てるときは重曹で中和しましょう。重曹もホームセンターで買えます。500円ぐらいです。ビスマスには鉛のような毒性がないので、少量であれば廃棄しても大丈夫です。大学では、専門の業者さんに廃液を回収して貰います。

 サンポールで酸化膜を落としたビスマスを加熱しても、色はつきません。溶けると色がつきます。どうしてそうなるのか、考えてみてください。インターネットで探せば、答えが見つかるかもしれません。どうしても見つからなければ、大学に来て勉強してください。

さいごに

 結晶を育てる技術は、半導体産業と共に発展してきました。シリコン単結晶のサイズが大きいほど、コストダウンすることができます。この実験で結晶やビスマスに興味を持った人はおそらく、マテリアルサイエンスの素質があります。物質世界を作る学問です。是非勉強してみてください。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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