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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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Pict-Labo~写真と動画で科学をのぞく~

強くて伸びる鉄隕石中の微小な結晶

2021年12月10日|熊本大学 材料・応用化学科
mein_image写真1:キャニオンディアブロ鉄隕石の微視組織の光学顕微鏡写真

鉄隕石は、鉄、ニッケルからなる合金で、鉄隕石を構成する主な相には、体心立方晶構造の「カマサイト」、面心立方晶構造の「テーナイト」、斜方晶構造の「コーヘナイト」などがあります(写真1)。今回研究に用いた試料は、キャニオンディアブロ鉄隕石です。大部分を占めるカマサイト(動画1)の降伏強さ(塑性変形が始まる強さ)と破壊までの伸びは、それぞれ350MPa、19%と測定されたのに対して、非常に微小なテーナイト(動画2)はそれぞれ935MPa、65%と強くてしなやかな性質を示しました。

動画1:カマサイトのマイクロ引張試験の様子(左下図:応力(縦軸)とひずみ(横軸)の関係)

動画2:テーナイトのマイクロ引張試験の様子(左下図:応力(縦軸)とひずみ(横軸)の関係)

 独自に開発したマイクロ引張試験(※1)技術を用いて、鉄隕石(※2)を構成している髪の毛の太さよりも小さいサイズの結晶相(※3)ごとの力学特性(引っ張ったときの強さと延性)を精密に計測することに世界で初めて成功しました。その結果、窒素を多量に含む「テーナイト(※4)」と呼ばれる相が強さと延性を兼ね備えていることを発見しました。鉄隕石は、その起源と歴史を理解するために調べられてきましたが、これまでの材料試験技術では、コーヘナイトのようなもろい相に含まれるき裂の存在のために鉄隕石の物質そのものの強さと延性を正確に計測できていませんでした。通常、地球上で作られるニッケルを含む鋼材では、窒素を多量に含ませることができないのですが、キャニオンディアブロ鉄隕石のテーナイトには、多量の窒素(1.35質量%)が含まれており、高い強さと延性の発現メカニズムに寄与しているものと考えられています。この成果は、鉄隕石の起源や歴史の解明だけではなく、今後のサステナブルな社会を支える「先進高張力鋼」の設計戦略の考案に役立てられることが期待されます。人類が初めて手にした金属と言われる鉄隕石が現代のものづくりにもヒントを与え続けているのかもしれません。

※1 マイクロ引張試験:MEMS(メムス)と呼ばれる、非常に微小な世界で活躍する電子機械デバイスを構成する材料の力学特性計測のために開発された試験方法。従来のサイズでの引張試験に用いられる試験片の千分の一程度のスケールで計測することが可能です。

※2 鉄隕石:主に 5 から 60 質量%までのさまざまなニッケル含有量をもつ鉄–ニッケル合金。ニッケル含有量に基づいて異なる組織学的特徴を示すいくつかのタイプに分類されます。発見された場所にちなんで命名されます。

※3 相:物理的な状態や化学的組成が一様な形態のもの。例えば、気相、液相、固相などがあります。固相は、結晶構造や化学的組成に基づいてさらにα相、γ相などに区別されます。

※4 テーナイト:鉄隕石を構成する鉄–ニッケル合金で、ニッケル含有量が約30から60質量%の面心立方晶の結晶構造をもつ金属相。人工的に作られるオーステナイトに相当します。

引用

www.nature.com/articles/s41598-021-83792-y

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