金属であっても融点まで加熱されると液体になります。溶融金属の液滴が、融点以下の固体へ衝突すると、広がりながら固まります。このとき、衝突界面の中央付近には、衝突初期に発生したスプラッシュ模様や気泡領域が作られます。また、衝突界面の外側には、接触線の広がりと凝固が繰り返されることで作られる断層構造が見られます。このように、溶融金属液滴の凝固界面には、高温で弾けていた頃から、じわじわと凝固していき、やがて完全に止まるまでの生涯の足跡が残されているのです。
図2
人類が火を扱えるようになってから今日にいたるまで、金属は私たちの生活のなかで広く使われています。そして最新技術では、金属材料の3Dプリンティングが開発され、切削や鋳造では作ることが難しい形状の金属加工が可能となりました。金属3Dプリンター製品の機械的強度や、熱的・電気的特性をさらに良くするためには、溶融金属液滴界面に形成される気孔や空気層を取り除く必要があります。
ところが、たった1滴であっても、広がる金属液滴が気体をトラップするメカニズムは、わかっていません。実験の難しさは3つあります。まず、金属試料を溶かすために、300℃以上の高温度が必要なこと。それから、溶融金属液滴の表面は空気中ではすぐに酸化してしまうので、不活性ガスで置換した容器内での実験が必要なこと。そして、界面模様は液滴接触後マイクロ秒〜ミリ秒の非常に短時間のイベントで起き、しかもトラップされる空気層の大きさはマイクロメートル程度であることです。
私たちは、これらの問題を克服できる実験装置を作製しました。液滴周囲ガスを置換するための真空容器は、側面に透明アクリル樹脂を用いることで、液滴衝突を様々な角度から撮影可能としました。また、真空容器底面に取り付ける観測窓にサファイアガラスを用いることで、可視光のみならず近赤外光による温度計測、さらにはレーザー干渉縞計測を可能としました。実験では、1滴だけ溶融金属液滴を生成し、サフィア基板へ衝突させます。そのときの様子を、長距離顕微鏡と2台の高速度カメラで撮影します。カメラの代表的な撮影速度は60,000 fpsです。
撮影で得られた動画を図2に示します。基板温度が(a)50℃、(b)200℃と異なります。上段は側面からの、下段は底面からの撮影動画です。基板温度が低いと広がる過程で凝固し最終的に動かなくなります。このとき、凝固界面にはたくさんの気泡や気体層がトラップされていることがわかります。一方で、基板温度が高いと、衝突界面は鏡面のようで欠陥が見られません。最大広がりのあと、液滴は収縮に転じ、最終的には大きく縦に伸びて、こけしのような形で基板から離脱します。
気体を混入させたくなければ基板温度を上げればいい。しかし、それでは金属液滴凝固による造形ができない。これらを両立する解決策を、私たちは高速度カメラ顕微鏡撮影を駆使して探求しています。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。