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まだ知られていない厳冬期の絶景を求めて

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2023年12月15日|九州工業大学 情報工学部 森本雄祐
動画1:細胞性粘菌のcAMPシグナル伝達の蛍光顕微鏡観察

細胞性粘菌は、土壌表面に広く分布する微生物です。細胞性粘菌は、森の土壌中で餌となるバクテリアが豊富なときは、分裂によって増殖を続けますが、やがて飢餓状態になると、細胞は互いにシグナル伝達物質となるcAMPの放出を同期させ、その勾配に向かう運動によって集合します。そして、アメーバ細胞の集合体は、最終的に子実体と呼ばるれ植物のような構造を形成します。原始的な微生物である細胞性粘菌が、生命科学研究のモデル生物として扱われる理由の一つは、このユニークな生活様式にあります。

動画2:細胞性粘菌のカルシウムシグナルの蛍光顕微鏡観察

なぜ粘菌?

 生命や細胞の仕組みを理解することは、病気の解明や薬の開発に直接つながる研究です。それであれば、ヒトの細胞を調べたほうがよいのではと思いますが、もともと多数の細胞から個体を構築しているヒト細胞を個々に取り出して扱うには、いろいろな課題が生じます。それに対し、細胞性粘菌は、簡単に細胞を培養・増殖させることができ、遺伝子操作が容易であるなど、細胞レベルの研究を行うことに適しています。さらに、飢餓状態にすると、わずか半日で、単細胞状態から多細胞状態に移行するため、細胞分化や多細胞体構築の仕組みなど、生命科学の大きな命題を短時間で観察、計測することができます。つまり、粘菌としての仕組みを知ることが学問となるだけでなく、生命科学一般の研究対象としても粘菌は優れているのです。

どうやって観察する?

 細胞性粘菌が多細胞体を構築するためには、約10万の細胞が一箇所に集まる必要があります。そのために、細胞性粘菌は自ら集合の合図(シグナル)を出します。シグナルの実体は、細胞間を波のように伝搬する誘引物質(サイクリックAMP)が担っており、細胞は誘引物質の濃度がより高い方へと移動することで、集まることができます。シグナルは通常の顕微鏡で見ることができないほど小さい分子のため、蛍光顕微鏡技術を利用することで、シグナルのやりとりを観察することができるようになります。シグナル濃度の上昇、下降に応じて蛍光の明るさが変動する蛍光プローブとして開発されたタンパク質を細胞内で発現させ、観察します。これにより、細胞がシグナルを受け取ると細胞内でシグナルが合成され、その後シグナルが放出され、近くの細胞に伝えられる、というシグナルのやり取りがリレーして、同心円状または、らせん状に伝わっていくことが観察できます。

何に役立つ?

 細胞性粘菌のシグナル伝達の仕組みは、ヒト細胞を含む、多くの生物に共通の仕組みです。つまり、扱いやすく短期間で研究ができる細胞性粘菌によって明らかになった生命の仕組みから、形態形成に関わる病気の仕組みや、ヒトなどの多細胞生物がどのようにして生まれてきたかなどを明らかにするための大きな知見が得られることになります。

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