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次世代マラリア治療薬の設計と短段階合成

2019年4月12日|東京農工大学 工学部
イメージ図イメージ図

マラリアは、熱帯・亜熱帯の地域で猛威をふるう世界的に重要な感染症です。マラリアの治療には、ヨモギ科植物から発見されたアルテミシニンが薬として使われています。本研究では、アルテミシニンを構成する炭素原子の一つを窒素原子に置き換えた分子を設計し、これまで化学合成が困難であったアルテミシニンの類縁体を簡便に創製できるようになりました。単純な原料から複雑な分子をわずか 4 工程で構築し、多様な類縁化合物群を自在に合成することに成功しました。次世代の医薬品の開発へ発展することが期待されます。

図1. 従来の抗マラリア剤: アルテミシニン図1. 従来の抗マラリア剤: アルテミシニン
図2. 6-アザーアルテミシニンの迅速合成図2. 6-アザーアルテミシニンの迅速合成
図3.  次世代マラリア薬候補化合物図3. 次世代マラリア薬候補化合物

 漢方薬の有効成分であるアルテミシニン (1) やその誘導体アルテスネート (2) は、赤血球内に侵入したマラリア原虫をほぼ一掃する薬効を示し、マラリア治療に革新をもたらしました(屠呦呦博士 2015 ノーベル生理学・医学賞)。最近では、アルテミシニン類をがんや他の感染症の治療に適用していく取り組みも活発になっています。従来、アルテミシニン類の誘導体化(主となる構造を保ったまま、一部を改変した類縁化合物をつくること)は、化学変換が可能な D 環部にほぼ限定されてきました(図 1)。

 本研究ではアルテミシニン (1) の構造を簡略化せずに窒素官能基や非天然型置換基を導入した 6-アザ-アルテミシニン群を設計しました(「アザ」は炭素原子が窒素原子に置き換わったことを意味します)。母骨格の 6 位の炭素を窒素に置き換える"元素置換戦略"により、シンプルな三つのユニットから僅か 4 工程で 6-アザ-アルテミシニン骨格を構築する合成プロセスを開発しました(図 2)。このアプローチにより、従来手付かずとなっていた C 環部へ様々な置換基を導入した類縁体群を手早く柔軟に合成できるようになりました。今回合成したアザ−アルテミシニン群の中から、アルテミシニン (1) よりも優れた治療効果を発揮するマラリア薬候補化合物(3, 4 等)の創製に成功しました(図 3)。

 合成法の改良と構造の多様化を進めていけば、次世代の感染症治療薬や制がん剤の開発につながる可能性があります。母骨格の炭素を他の元素へ置き換える分子設計・短段階合成戦略は他の天然物にも一般性を持って適用できるはずです。複雑な天然物をモチーフとして生体機能性分子群を合理的に設計し、柔軟に迅速合成していくアプローチとして、今後の更なる発展が期待されます。

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