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Pict-Labo~写真と動画で科学をのぞく~

体内で溶けるメディカルデバイスのマテリアルデザイン

2018年4月26日|神戸大学 工学部

医療で行われている外科手術には、手早く処置を進めるために様々な金属デバイス(器具)が使われている。例えば、急な出血を止めるためのクリップや切除した組織をつなぎとめるステープルなどがある。これらのデバイスには組織を留めるための強さや安全性が必要となるため、チタンなどの丈夫な金属が用いられている。チタンは体内で半永久に残るため、手術後の経過を診断するための画像を乱すなどの欠点がある。そのため、医療現場では生体組織が回復した後に溶けて消失するようなデバイスが望まれている。

画像1 ラット体内のチタン・クリップ(放射状の陰がCT画像を乱している)

画像1 ラット体内のチタン・クリップ(放射状の陰がCT画像を乱している)

画像2 カルシウムと亜鉛を混合したマグネシウム中の電子密度分布

画像2 カルシウムと亜鉛を混合したマグネシウム中の電子密度分布

映像3 ラット体内のマグネシウム・クリップ

映像3 ラット体内のマグネシウム・クリップ

画像3 ラット体内のマグネシウム・クリップ(残存してもCT画像を乱さない)

画像3 ラット体内のマグネシウム・クリップ(残存してもCT画像を乱さない)

 大型のネズミであるラットの一部血管をチタン・クリップで閉鎖する「血管閉鎖モデル試験」では、きちんと血管が閉鎖されて、ラットが普通に生活できることを確認している。ラットの体内にチタン・クリップが留まっている様子をX線CTにより観察した例を映像1と画像1に示す。ここでは、チタン・クリップが閉じた状態をしっかり確認できるようにX線の強さを調整すると、肋骨など周囲の骨構造を視認することができなくなる。また、内蔵を確認できるようにX線の強さを調整すると、放射状の明るい部分が出現し、クリップ周囲の画像を乱している。これは、チタンがX線を吸収するために生じるアーティファクトと呼ばれる現象で、画像による手術後の経過観察に支障をきたす場合がある。

 マグネシウムは軽量ノートパソコンのボディなどによく用いられている、一般に用いられている金属の中では最軽量の材料である。マグネシウムは水と反応してイオンになりやすいため、体内では水分と反応して溶ける性質がある。一方で、マグネシウムは結晶構造に由来して自由に形を変えることが難しく、壊れやすい性質がある。例えば、映像2の様に、曲げる力を加えると破壊が簡単に進んでしまうような欠点がある。

 しかし、チタンと同様に金属材料であるため、その他の金属元素を混合すると、画像2のように破壊の通り道に自由電子を集めることで、強くすることが可能となる。

 内部を造り替えたマグネシウムを用いて、曲げても壊れにくいクリップを作ることができた。チタン・クリップと同じモデル試験を行った結果を映像3に示す。マグネシウム・クリップは骨とX線の吸収率が同程度であるため、マグネシウム・クリップが確認できる強度のX線を用いて、骨格構造が全て視認できることがわかる。また、画像3だ確認できるように、分解途中のクリップが体内に残っている状況であっても、周辺の内臓組織をアーティファクトの影響を受けずに視認できることがわかる。

 以上のように、クリップなど医療デバイスに必要とされる強さや変形しやすさは、マグネシウムの内部構造を最適設計することで可能となり、取り出すための追加手術を必要としない、われわれの体に優しい医療デバイスとして発展することが期待されている。

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