焚火の煙や、寒い日に吐く息、お風呂に溶かす入浴剤など、日常のふとした場面で空気や水の乱れた運動、乱流が目に見えるようになることがあります。乱流は大きくも細かくも動く複雑さ、また次の瞬間どの向きに動くかわからない予測困難さをもちます。その不思議さと美しさは我々を惹きつけるだけでなく、機械の効率や性能を決定する重要な現象でもあります。しかし、その複雑さゆえに乱流をそのまま扱うのは大変です。そこで活躍する技術の一つに、特徴抽出とデータ圧縮があります。
図2
スマイルマークでも我々には人の顔であると容易にわかるよう、大切な特徴だけを残して、ほかの情報は思い切って捨ててしまえる場面が時々あります。BMP画像からJPG画像への圧縮でも、そのような特徴抽出と重要でない情報の削除の結果、画像サイズが削減されます。では、それを複雑な乱流データに使うとどうなるでしょう。図1で、上段が元の乱流データ(緑色は周りより高速、青色は低速)、下段が圧縮された乱流データです。見比べると、上段にあった細かい凹凸が下段ではすっかりなくなっており、おおまかな黄色と水色の配置はうまくそのまま保持できていることがわかります。
しかし、ここで問題が発生します。どこまでデータを圧縮すれば十分で、どこまで圧縮するとやりすぎなのでしょうか。なぜ下段の結果に残された情報は「重要」といえるのでしょうか。実は、下段の結果は、たった5種類の「らせん状」の高速・低速配置パターンを合成するだけで得られるものです。図2には、それらのらせんパターン表面に見られる模様を描いています。円筒上のらせん模様は平面に展開すると斜めストライプ状になります(床屋のサインポールの展開図をイメージしてください)。上から3つはストライプに見えませんが、それは右回りのらせんと左回りのらせんが合成されているためです。下2つは上3つよりも横方向つまり流れの方向に向いたらせんであり、上3つとは異なる乱流現象を担っていることが判明しています。
ここまで乱流データの正体を明確にできると、当初より複雑さは大幅に低減されており、こうすることで現象の理解は促進されます。このように,複雑な現象の本質をつきとめ、その結果を活用して流体を思い通りに流せないか、そして現在以上の省エネルギーを実現できないか、そのようなチャレンジに我々乱流研究者たちは取り組んでいます。
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