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異なるきこえから見出す社会の”障害” - 当事者発ITソリューションの挑戦

2024年12月27日|筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 共創データ工学研究室
図1: 複数名の聴者との議論にろう・難聴者が参加できない根本的な問題 図1:複数名の聴者との議論にろう・難聴者が参加できない根本的な問題

筑波技術大学産業技術学部は聞こえない人・聞こえにくい人が集い学ぶ学部です。現代社会で私たちは、電車やバスでのアナウンス、救急車のサイレン、日常の会話など、無自覚なほど多くの場面で声や音に頼った生活をしています。

本学の学生たちは聞こえない・聞こえにくい人の立場から社会の問題に切り込んで深く分析をし、彼らだからこそ気づくそれらの問題に対して最新の情報科学技術を活用したソリューションを提案し開発しています。

図2: 日高 直也, 渡辺 知恵美, 聴覚障害者による鉄道利用時における非常時アナウンスの情報保障, 音声コミュニケーション研究会資料, 2024, 4 巻, 1 号

図2:日高 直也,渡辺 知恵美,聴覚障害者による鉄道利用時における非常時アナウンスの情報保障,音声コミュニケーション研究会資料,2024,4巻,1号

図3: 髙橋来海, 渡辺 知恵美, 聴覚障害者が一般校で体育系の部活動をする際の情報保障に関する所見等, 研究報告アクセシビリティ(AAC), 2024-AAC-24, No.16,pp.1-6, 2024.

図3:髙橋来海,渡辺 知恵美,聴覚障害者が一般校で体育系の部活動をする際の情報保障に関する所見等,研究報告アクセシビリティ(AAC),2024-AAC-24,No.16,pp.1-6, 2024.

図4

図4

「聞こえない人・聞こえにくい人が集い学ぶ学部」と聞くとキャンパスはとても静かなのかなと思う人もいるかもしれません。実際はその逆です。キャンパスのあちこちで学生たちの会話であふれとても賑やかです。相手の聞こえによって手話を使ったり口話を使ったり、皆とても積極的に生き生きと発信をします。授業でもグループ演習やディスカッション、発表が多く、学生たちの質問・相談・議論に教員も混じって大わらわです。

 では普段議論に活発に参加する学生が、聞こえる人に囲まれると「おとなしく」見えてしまうのは何故でしょうか。現在一人の学生が卒業研究としてこの問題に切り込み、情報技術を活用して議論に積極的に参加する方法を模索しています。図1は複数名の聴者(聞こえる人)と議論をする時にろう・難聴者が音声会話に加わって発言することの難しさを時系列で表しています。聴者の会話を文字起こしし、ろう・難聴者はチャットで発言する状況を想定しています。文字起こしの表示の遅れ、誤認識・誤変換部分の推測による議論内容の把握の遅れ、チャット入力待機時間の長さ、発言の認知されにくさ、など多くの要素が重なって議論に入ることができないことがわかります。これらは翻って言えば「発話内容がすぐに全て相手に伝わると勘違いしてしまう」「発話のタイミングが難しい」「無言時間が長いと不安に感じてしまう」という音声対話自体が持つ”障害”とも言えます。現在この要因分析をもとに「発話の意思に気づきやすい手法」「会話の流れに沿ったチャット手法」の模索をし、それらを取り入れたシステムを開発中です。

 この研究に限らず、本学部では聞こえない・聞こえにくい人の立場から社会の問題に切り込み深く分析をし、それらの問題に対する最新の情報科学技術を活用したソリューション開発に挑んでいます。

 例えば、電車の非常時アナウンスの可視化に関する研究では、電車内で音声認識の精度が悪い非常時アナウンスに対し、つくばエクスプレス社の協力のもと非常時パターンとアナウンスのパターンを背景知識として知識ベースに蓄え、機械学習で音声認識の結果を修正するシステムを開発しました(図2)。また、ろう・難聴者がスポーツ強豪校での練習に参加する際、コーチからの突発的な指導に気付けないという問題に対し、タイミングさえわかれば内容は周りから何としても得られるという方針のもと、音と振動で同時に伝える電子ホイッスルを開発しました(図3)。

 最後に図4は私の所属する研究室でのゼミの様子です。写真だけではわかりにくいかもしれませんが、ゼミは毎回学生同士のディスカッションで盛り上がります。それぞれの研究に対してお互いに当事者意識が強く、一緒に解決したいという気持ちが強いからではないかと思います。

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