名古屋工業大学物理工学類の徳永透子助教の研究室では、社会を支える基盤的材料から次世代先進材料に至るまで、各種金属系構造材料の新規開発、特性向上を目指した研究を行っています。
身の回りにはたくさんの物質がありますが、たとえば、ゴムは変形しやすくやわらかい一方で、お茶わんなどの陶器は非常に硬くほとんど変形しません。このように、一般的に物質はやわらかいものほど変形しやすく、硬いものほど脆い性質があります。金属は力をかけると変形して耐えることができますが、それでいて、ゴムのようにやわらかすぎるわけでもありません。つまり、金属は硬さと変形のしやすさを兼ね備えた優れた材料といえます。
図2 岩盤を破砕しながらトンネルを掘るトンネルボーリングマシン
上で述べたように、金属は他の物質と比較すると、硬さと変形のしやすさを両立していると言えます。ただ、金属の中でもやはり硬いものは脆く、やわらかいものは変形しやすいという性質があります。たとえば図1(参考文献から引用)は鉄鋼材料の硬さと破壊のしにくさ(靭性)の関係を表したグラフです。このグラフからも、硬さと靭性は両立が難しいことがわかります。
そんな中、名古屋工業大学物理工学類の徳永透子助教の研究室では、硬さと靭性、さらに変形のしやすさ(延性)のすべて高い水準で達成できる材料「TOUGHFIT®(タフィット)」を株式会社コマツ、山陽特殊製鋼株式会社と共同開発しました。このTOUGHFIT®は2023年の春から実用化されており、超高強度、高靭性、高延性を有する鉄鋼材料として、注目を集めています。
たとえば、TOUGHFIT®は現在、岩盤を破砕しながらトンネルを掘るトンネルボーリングマシンのカッタリングの材料として適用されています(図2(参考文献から引用))。カッタリングには高い耐摩耗性と耐衝撃性を兼ね備えている必要があり、TOUGHFIT®が使われているカッタリング、トンネルボーリングマシンは良好な使用実績が得られています。
TOUGHFIT®はこれまで使われてきた高硬度・高靭性を有する鉄鋼材料と比較して、CO2を多量に排出するガス浸炭処理が不要で、さらにレアメタル添加量も少ない省合金です。今後は建設機械や重機で使用されるギヤやシャフト、ベアリングなどへの適用が見込まれており、環境に優しいエコな材料としての活躍が期待されています。
1. 萩原幸司,徳永透子,山本幸治,杉本隼之,南埜宜俊,Sanyo Technical Report, 31 (2024), 3-14.
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